第45話 また原チャリに突っ込まれた話
いつだったか追突された。状況の説明から始めよう。
川沿いの道を極普通に走行していた。二台前の車がコンビニに入るため左折しようとして速度を落とした。当然、直前の車もブレーキを踏む。私も減速した。その時である。コン。後ろに軽い音と振動を感じた。衝撃とまでは呼べない。
ミラーを覗くとスクーターがフラフラと付いてきている。自車を左に寄せ停車させハザードを灯す。原付も動きを合わせるようにして止まった。
後方の安全を確認しドアを開け、話に行く。
「大丈夫?」
「はい、すみません」
「何処に突っ込んだ?」
「すみません、すみません」
どう見ても大学生の若者である。バイクを見るとフロントフェンダーにヒビが入っているくらいで走行に支障はないように見える。私の車もバンパーの塗装が少し剥げただけだ。
暫し考える。通報すべきなのか。法律上のことは分からないが恐らく加害者となる彼はそれを望んでいない。
もし警察を呼んだ場合、物損とはいえ警察署に連れて行かれ調書を取られるだろう。警察から示談を勧められれば私に修理代を払わねばならぬ。修理代となればバンパー一本の部品代プラス塗装費、交換工賃となる。任意保険に加入していない可能性もある。
仮に私が意地悪に
「首が痛い」
等と言ったらもう大変だ。業務上過失傷害罪で起訴され罰金刑となり、免許停止かも知れない。
よって寛大な私はこの一件を不問に付すことに決めた。
しかし、もし相手が怪我をしていると救急車を呼ばなければ救護義務違反に問われる。そこで念を押す。
「本当に何処も痛くない?」
「はい、すみません」
「怪我してないんだね?」
「はい、すみません、すみません」
分かった。スミマセンの連発はもういい。追突は突っ込んだ方が百パーセント悪いということを理解しているのだろう。
「じゃぁね、行くよ」
「すみません、すみません」
あんちゃん、そこまで悄気なくていい。失敗は誰にでもある。許してもらえたのはラッキーなんだから前向きに捉えなさい。
暫く一緒に走って大きな交差点で分かれた。
帰宅してドライブレコーダーの映像を確認した。我が車は前方、後方、室内の三カメラ搭載だ。GPS連動で車速も記録される。
時速四十キロで走っていて二十九キロになったところで当たっている。お兄さんは何故か僅か数秒だが右を見て前を見ていない。首を前に戻したところで慌ててブレーキを掛けたが間に合わず軽くヒットして少しよろけ、そのまま走り続けたようだ。
余所見運転、脇見運転だ。右側は川だぞ。何も無いぞ。何に気を取られたんだ。車間も詰めすぎだしゼロハンだから速度も超過だ。
と、この回はこれで終わりである。だがタイトルの頭は「また」だ。そう、スクーターに追突されたのは初めてではない。
ある時は信号待ちをしていたら、お姉さんが転がっていた。のならば話も違うが実際には転がっておらず傾いていた。
「お兄ちゃん、それ位、許してやれや」
無責任な外野の声が飛ぶ。
車が幾らか壊れているので顔が引きつっていただろうが、許してやれ、と響き渡れば仕方がない。
そして
「なんて私は心が広いんだ」
と、半ば強制的に自分を納得させ、流してしまったが、後にそれが原因でトランクが開かなくなり、ディーラーに膨大な費用をを支払うこととなった。
他にもあったが記憶の彼方である。
しかし度々、同じ事が起こるからには原因があるはずだ。もしかして車が低く小さく目立たないからか。
計ってみよう。
ボンネット先端: 64cm
運転席部分の屋根上端: 128cm
トランク後部: 92cm
ブレーキランプ下端: 67cm
空車状態での計測なので私が乗ると、未だ下がる。
低いな。単車やミニバンからは屋根の上を通り越して前方の車しか意識できないだろうな。
かといって、パトライトやタクシーの提灯を装着するわけにも行くまい。ハイマウントランプくらいは用意するか。
昭和の車の憂鬱であった。
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