第41話 チッキ

 もう十年前のことだが現在でも状況は変わらないだろうから書こう。


 伯母が四国の実家へ帰省するらしい。で、バッグが大きく重く、どうするか、と、思案していた。母は言った。


「チッキにすればいいじゃない」


 チッキ、何処かで聞いた言葉だぞ。伯母は良く理解していない様子だったが結局、


「チッキにするので新幹線の駅まで運んで」


 私が大役を仰せつかった。


 母に確認する。


「チッキって何?」

「荷物じゃない。列車に乗る時に荷物を預けると降りる駅で受け取れるあれ」


 そういえば、こどもの頃、母が手荷物を係に渡してから電車に揺られたことがあったな。思い出した。荷物専用の切符を買うと、人とは別に荷物を連れて行ってくれるんだ。


「分かった。伯母さんの荷物を駅まで持って行って窓口で渡せば良いんだね?」

「そう。じゃ、お願いね」


 伯母が旅立つ日、私は箱だの鞄だのを載せ、車を走らせた。伯母は別行動だという。


 積み荷を降ろした私は、それを手に駅のカウンターへ。


「すみません、チッキ、お願いします」

「は」


 聞き間違いではない。はっ! でもなく、はぁ? でもなく、抑揚のない声が返ってきた。聞き取れないのかと思い、ハッキリと告げる。


「チッキです、チッキをお願いします」

「チッキって何ですか?」

「え、乗車時に預けたら下車時に受け取れる、あれ」

「.......」

「手荷物の運搬です」

「弊社ではそのようなサービスは取り扱っていません」


 駅員に通じない。もしかしてチッキ自体、廃止になったのか。母が国鉄時代にトリップして語っていたのなら有り得るな。硝子の向こうでは何人かが話し合い、結論が出た様だ。


「誰も列車での荷物運搬サービスは存じておりません」


 予感は的中した。恐らく赤くなっていたであろう顔を反対側へ秒速で移動し、一目散に駐車場へと逃げた。


 伯母の荷物は帰りに宅配便で送った。


 今、改めてウェブ百科事典を見ている。そこには鉄道での小荷物配送サービスは昭和六十一年に終了した、とある。国鉄民営化後の民間には引き継がれなかったのだ。道理で最近、荷物電車を見ないはず。幼かった私の記憶が確かならば、昔の快速には荷物専用車両が一両か二両、必ず連結されていた。郵便車もあって、大きな扉からホームに郵便物が詰まった袋を投げていた。それも無くなったそうな。


 宅配便に押されたのが主な原因らしい。確かに競合する。低収益、或いは不採算な部門は切り捨てるのが合理的なのだろう。しかしチッキという言葉の響きには旅情があるではないか。


 等と感慨にふけっていたらニュースが目に止まった。


「貨客混載開始」

「貨客混載、新幹線へも」


 なんと、部分的ながらチッキの復活である。異なるところは乗客が駅で切符を買っで頼んだ荷物を運ぶのではなく、運送会社経由となるところだ。その上、


「その列車に積んでくれ」


 これは一般人には無理だ。行き先的に列車が最適と判断された物、新幹線での速達性を活かせる鮮魚等、が、優先されるのだろう。


 しかし、この先行実験で有意性が立証されれば用途は広がるかも知れない。チッキの完全復活も視野に入る。何よりトランクに切符を貼り付けて改札で渡して改札で受け取る。なんて、出来たら素敵じゃないか。


 さて結果は如何に。


 夢が広がったところで今夜はお開き。では。

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