第38話 愛の回路

 一昨日、二輪用品店でバイク部品を購入した。


 貼られている数字を見て会計を済ませると、


「なんか高いような」


 この時点でもう人間失格である。即座に頭を使い、おかしいと判断するのが普通だ。


 説明しよう。


 商品の箱には本体三千三百円と印字されたシールが貼られていた。レジへ持っていくとスキャナーに通され、


「三千七百四十円です」

「はい、五千四十円でお願いします」

「お釣り、千三百円です、ありがとうございましたー」


 四十円の端を調整して百円玉を受け取ろうという計算が働いているのに、商品価格が百円、増加していることに気付いていないのだ。


 いや、冒頭で述べたように何か多いな、とは思った。だが、そのまま品物を受け取り帰宅してしまった。駄目な人である。


 で、昨日、値札が貼られた箱とレシートを持って異議を申し立てに行った。パーツ自体は取り付けてしまったので差し出せない。


「すみませーん、書かれている額より税抜きで百円、余分に払っているんですが」


 レシートを一瞥した店員は箱のバーコードをスキャンする。


「合ってますね、三千四百円で登録されています」


 しかし、記された値段と異なるのでは。そんな疑問も虚しく、メーカーのサイトで定価を確認することさえしない。目の前の人にとってはレジのピっ、が、絶対なのだ。


 抗議する意欲が失せた。


 結局、差額、百十円は取り戻せなかったのか、もとから支払って当然だったのか不明だ。


 でも、受け取った金額が値札を超えていたんだから、一言、欲しかったな。


 レジの人よ。愛だよ、愛! この季節、ライダーには使い捨てカイロ程度の愛は必要なんだ。


 寒くなり立ち寄ったコンビニでクリスマスケーキという名の小さな愛を買った。前傾姿勢でコーナーを抜け、我が家へ辿り着くと、背中の愛は潰れていた。

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