第29話 宝くじファン
「第21話 フレンドリー法務局」で取り上げた登記手続きを行った。この話は後に「続 フレンドリー法務局」とでもしよう。その帰りである。
駅へ戻りバス発着場のディスプレイを見ると目的のバスまで十五分以上ある。そういえば財布の中にビッグが一枚あった。サッカーくじだ。ごく稀に買う。それの当落を照合してもらおうと駅のコンコースにある宝くじ売り場へ向かった。
私の前に客は一人。
「時間が余るな」
私はくじ券を取り出し、残る十数分をどう潰すか考え始めた。
その時だ。窓口前の人が何やら重なった板のようなものを受付に渡した。ナンバーズの申込書。職場での共同購入代表かな。そうでもなければ宝くじマニアだ。今回、タイトルをファンとしたのは前者と思われたからだ。
マークシートという名の分厚いトランプが一枚、また一枚と機械に吸い込まれていく。アンティークな蛍光管の数字が二百ずつ大きくなっていく。待つ。ひたすら待つ。その額が五千円を超えた頃、後ろに並んでいた客が散り始めた。処理は予想外に遅く、あと、どのくらいで終わるのか見当もつかない。
一万五千円になると列は私一人となった。上がる。上昇を続けるデジタル表示。時々、不備があるカードが弾き出され、会話と対応が繰り返される。その度に発券機は止まる。
「拙い、バスが来る」
時計を見た。だが、もう終わりそうだ。申し込み用紙が残り少なくなったであろうことは雰囲気で分かる。終わった。金額には触れないでおこう。
さぁ、私の番だ。
「スクラッチも頂戴、選ばせて」
絶望が木霊した。
カウンターにくじが広げられ、どれを取ろうか迷っている宝くじファン。私の気配を感じないのか。私の存在は受け取るくじの束より数段、薄いのか。
意識せず握りしめ歪んだビッグ、一口を財布に戻し、バス停へ急いだ。
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