第32話 ヴァーチャルヒューマン

 VM、Virtual Machineをご存知だろうか。ご使用の方も多いだろう。ヴァーチャルマシーン、仮想機械、詰まるところ、仮想のコンピュータである。一般的には「仮想マシン」と呼ばれることが多い。


 イメージ頂きたい。貴方はパソコンに向かっている。デスクトップのアイコンをクリックすると一つのウィンドウ内にスマホの画面が開く。そしてマウスは自由にPCのデスクトップと、窓となったスマホの間を行き来し、文章や音楽、写真のコピーペーストも、ファイルのドラッグアンドドロップも自在だ。その「スマホ」が仮想マシンだ。


 スマホは例えで、PCとの組み合わせは今のところ、そう単純には行かない。だが感覚的表現には相応しい。兎に角、コンピュータの中で別のコンピュータを動かせると非常に便利なのだ。


 くどい説明は終わりにしよう。


 仮想マシンは強い。自体がハードウェアを持っているわけではないので環境の変化に柔軟に対応できる。母体となるOSから見れば一つのファイルでしかないのでバックアップを取ることも、不調を来した時に書き戻すことも容易だ。PCが壊れれば新しいPCにコピーすれば済む。以前と何も変わらない状態を新しいコンピュータに移せるのだ。


 そこで、ふと思ったのである。VB、ヴァーチャルボディがあったら良いんじゃないか。健康な体の上で動作する別の人間である。


 何か失敗したらバックアップから脳内に復元する。ハードウェアである身体がボロボロになれば他の個人に移動する。いつまでも元気で安全に生きられるのだ。


 待て、仮想人間から生身のハードウェアは操作できないぞ。ひたすら外部からの入力を待って処理を行い、ハードウェアである肉体に取り次がれ出力するだけだぞ。そもそも起動さえ許されず、一生、ファイルとして格納されたままかも知れない。サクッと消される可能性もある。


 混乱しそうだ。人生に載っかる人生。それ楽しいのか。これを綴っている私は実は「私」だと認識するハードウェア内に置かれたヴァーチャルヒューマンじゃないのか。


 シャットダウンが迫っているので収めよう。


 確かに言えること、私にSFは書けない。

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