第19話 謝り屋
バイクな18話は華麗にスルーして19話へ。
ちょっとタイムスリップしよう。
深夜、人通りもなくなった街路。
そこに面する社屋に灯りが点いている。
少年が一人、黙々と車に箱を運んでいる。
そう、私だ。
夜九時を回って宅配便配達所に戻った私。
待ち受けているのは翌日、配る荷物とその伝票だ。
住宅地図を開く。
効率的なルートを探し、順番に伝票を纏める。
それを基に積み込みを開始する。
ドアを開けると手前から取っていけば良いように置く。
翌朝、飛び出したら奥底の一個を配り終わるまで帰らない。
巡り冒頭のシーンへ。
当時は歩合給で一個、届けると百円もらえた。
車もガソリンも会社持ちなので税金を除けば全てが私のものだ。
二百個を超える量をこなすこともあった。
百二十個が最低ライン。
ネット通販がない時代。
多くは百貨店のギフト、テレビショッピングの商品だった。
儲かった。
学生の小遣いには充分だった。
しかも学校が休みの時だけ働かせてくれる。
家庭教師や予備校講師の話もあったが、それらより気楽でもあった。
そうして続けていると人柄を見込まれたのか。
困った荷物の処理を任せられるようになった。
困った荷物。
今で言うクレーム物件である。
所長がデパートの包みを私に渡す。
振ってみなくとも分かる。
ガチャガチャ、割れたガラスの音がする。
「頼む」
二月中旬、仕分け用カート深くから潰れた小物が見付かった。
配達指定、十二月二十四日。
ネクタイかハンカチか。
大切な人へのクリスマスプレゼントだ。
「頼む」
今、思えば「あどけなさの残る若者」を利用していたのだろう。
大人が行けば大問題とされるところ。
アルバイトの未成年が来てひたすら謝るのである。
腰は直角を越して曲げ、納得いただけるまで頭を上げてはならない。
いや、どう考えても納得いただけないのは承知なのだが。
幸い大目玉を食らうことはなかった。
残念ながら処理でエクストラな給料は出ず。
無給、謝り屋である。
時代は変わった。
各業種、クレーム、事故担当は、さぞ大変だろう。
相手が正しく、こちらに非があれば心を尽くして詫びるのは当然だ。
許されない場合もある。
折れるのも想像に難くない。
だが、あなたを求めている人々は存在する。
健闘を祈る。
さて、この宅配では様々な人間模様、ドラマを垣間見た。
が、それはまた別の話。
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