第16話 明石のたい
少し前のことだが良いだろう。
目黒のさんま、ではないのでオチもない。
初夏のある日、私はスーパーにいた。
一番に向かうのは鮮魚売り場だ。
当地では魚が安く豊富で毎回、異なるものが心を惹く。
それに合わせ野菜等副菜を用意する。
あった、本日の目玉。
山と積まれている。
ここでは捌いてパックに入れる等、不粋なことはしない。
漁師の意思をそのまま置くのだ。
たまたま獲れ過ぎて出荷先が見付からなかったのか。
時間が合わず、高く売れないのか。
格安品が必ずある。
詳細は不明だが独自の入手ルートを持っていることは確かだ。
で、その山を覗いた私は自分の脳を疑った。
目玉にも程があるだろう。
明石鯛である。
さっきまで海を泳いでいたのは素人でも分かる。
得も言われぬ天然物独特の色と形だ。
でかい。
計らなくても四十センチクラスなのは間違いない。
身付きも良好だ。
お造り用鯛、地物、五百円。
どうしようか。
思案している内にどんどん手に取られていく。
裸の鯛は客が持つビニール袋に吸い込まれていくのだ。
財布と相談し大枚千円を叩き、二本、確保した。
持ち帰り計ってみる。
四十二センチ以上ある。
念入りに包丁を研ぎ三枚に下ろす。
素晴らしい。
極上の肉質だ。
柵に切り分けた後、丁寧に引いていく。
皿が揃った。
食す。
言葉にしてはならない。
只、口に運ぶ。
同じ魚に数千円以上出される方には申し訳ないが。
地元民特権ここに発動である。
しかし、これほどの出物はそうはない。
巡り会ったのが幸運なくらいだ。
昔、市民の台所だった有名商店街は観光客用と化した。
値付けも強気だ。
大型店舗は画一的な品揃えで面白味がない。
だが小規模スーパーは頑張っている。
日々、発見がある。
さあ、次のお買い得品は何だ?
思いを馳せさせる意地を買いに行こう。
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