第8話 酒

私はアルコールを飲まない。

周りに迷惑をかけるからだ。


その日はなかなか眠れなかった。

ロックグラスに氷を置いた私はバーボンの栓を開けた。

水割りにはしない。

風味を損ないウィスキー職人の情熱を無駄にする。

そんな風に思っていた。

口を付ける。

芳醇な褐色の液体は僅かな喉の痛みと共に体に入っていく。

ヘッドフォンをかける。

当時、嵌っていたハードロックが心地よい。

進む。

何時しか意識を失っていた。


薄汚れた白ともグレーともつかぬ天井が目に入った。

病室だ。

窓から身を投げたらしい。

自殺願望などない。

理由は不明だ。

そもそも酔っぱらいの行動に原理など不要か。

腎臓破裂、肋骨骨折で退院まで二週間以上を要した。


帰宅するとワイルドターキーの瓶が転がっていた。

50.5度。

一本ではなかった。


これで摂取量をコントロールできないこと。

泥酔時に行動制御不能なことが証明された。


それ以来、一滴も口にしていない。


愛飲家よ。

酒と巧く付き合い良き人生を歩むか。

扱いを誤り転落するか。

その後、私の様に命を拾い生き続けるか。

あなた次第だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る