第3話 駆け寄る横断者
いつもの道を運転中、信号が黄色から赤に変わったのでゆっくりと止まった。
当然、直前の横断歩道は信号が青になる。
その途端、右側で待っていたと思われる人がこちらに向かってくる。
ガラスをノックするので窓を開ける。
「分かる、決まってるよ! 良いクルマだね!」
この車は旧い。
昭和から生きているのだ。
とはいえ横断中の歩行者が駆け寄ってきて話しかける。
等ということはこれまでなかった。
駐車場でのインタビューや写真撮影ならあるものの。
で、面食らったのだが褒められているので礼を言う。
「ありがとうございます」
彼はニコニコしながら手を挙げ、横断歩道に戻った。
信号が変わった。
発進する。
「よくあるの? こんなこと」
助手席からの声。
あるわけないだろう。
何か重大な問題でも発見しない限り、停止線にいる車に話しかける勇気があるか?
普通はない。
いや、私はない。
だがさっきの彼にはその勇気があった。
違う。
勇気など必要なかった。
心の赴くまま歩行者用カタパルトに載ったのだ。
極限の自然体。
褒められたことより行動全体の印象の方が大きい。
なんとも不思議な気分を味わった日だった。
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