第4話 モヒカンの勇者
「こんなステータスと職業、納得いかない!」
俺のステータス値は、ほぼ全てが最弱値で、ツッコミ値だけが999だった。
そして、職業は単なる勇者ではなく、ツッコミ勇者。
ツッコミ勇者ってなんだよとツッコミたいところだが、ツッコむとツッコミ勇者だと認めてしまうようでツッコめない。
そして、ツッコミについて、こんなに考えてる時点で俺はもうツッコミ勇者では?と思えてきてしまうから、末期状態だ。
俺が、分かったことは1つだけ。
この物語は、最強チート能力を持つ主人公が無双する話ではないようだ。
うん、家に帰りたい。
何とか、打開策はないかとお姉さんから話を聞いていると、1つ興味深い話を聞けた。
それは、町にある神殿まで行けばジョブチェンジが行えるという内容だった。
ジョブチェンジが行えるとは、願ったり叶ったりな情報だ。
こうなったら、神殿に行って職業を変えてもらうしかないだろう。
戦士や魔法職に転職できたら最高だ。
そうでなくとも、ツッコミの部分だけ消してもらおう。
じゃないと俺はツッコミ勇者として生きていくことになる。
そんな淡い期待と不安を胸に、俺は、神殿へと向かうことを決めた。
ギルドを出て、町の東側へと歩を進める。
神殿は町の東、切り立った丘の上に建っている。
高度もかなりあるため、町の中心からでも神殿の外観を仰視できる。
ちなみに、お姉さんの話では、ハウラスは宗教国家ではないらしい。
住人の大半が無宗教者。
冒険者の町では、強き者こそ英雄であり、人々の心の拠り所となっているようだ。
それでも、神殿の役割が無いわけではない。
少数派の住人のためにも、必要不可欠であるし、他にも重要な役割がある。
その一つが転職のお手伝いだ。
神官が神の声を聞き、冒険者を適正に合う仕事に導くのだ。
要するにドラ〇エだ。
他の役割も存在する。
邪気を退け、癒しをもたらすといったもの。
簡単に言うと、現代社会の病院だ。
傷を負った冒険者や病に苦しむ住人は対価を支払うことで、治療(神の恩恵)を受けることができるのだ。
町を幾ばくか歩くと宿屋街に入った。
見渡す限り宿屋らしき建物が並んでいて、それが端から端まで併設している。
宿屋をよく見ると、その1階は酒場になっていることが多かった。
まだ朝ではあるが、酒を飲んでいる冒険者たちもちらほら見かけられた。
この町に根付くことになったら、俺もここに泊まることになる。
なので、今の内に、色々と見ておくことは悪いことでもないだろう。
飲んだくれが多いとこは避けたいとこだしな。
モルドを出る時、村長からいくらかお金を渡されてもいるので、金銭的に困ることはない。
なので、今のところ、町での生活に関しては何も問題は無い。
問題があるとすれば、やっぱり今後の冒険だ。
俺のステータスが最弱であると分かった以上、安易にモンスターと戦うことはできない。
(とりあえず職業を変えられたら、仲間を集めをしたいな)
そんなことを考えながら、宿屋街を通り抜けると神殿の真下へとたどりついた。
「デカいな……」
その先に見える神殿は、遠くから見ていても大きく見えた。
近くで見ると、途轍もなく大きそうだ。
神殿までには何百段あるのか分からないくらい長々と大階段が続いていた。
今からこの大階段を上っていかなくてはならない。
これは骨が折れそうだ。
他に上っている人もおらず、俺はとにかく無言でひたすら階段を上っていった。
階段の段数自体が多いこともあるが、傾斜が急なため一段一段も高くなっていて、非常に体力が消耗された。
神殿まで登りつめた時には呼吸も乱れ始めていた。
「やっと、着いた……」
神殿の正面下で乱れていた呼吸を整えようとしていると、神殿の方から高尚な衣装をまとった神官が出てきた。
「ようこそおいでくださいました。本日は、いったい何用ですかな」
神官の話し方は、非常にゆったりとしていた。
その悠然さに、乱れていた俺の呼吸も少し和らいでいく。
その落ち着いた佇まいや、60歳は超えているだろう容姿から推測するに、この神官は神殿の主かもしれない。
「あの、ジョブチェンジを、したくて、来ました」
「ほう、さようですか。それにしてもお疲れになっているようですが、エレベーターは使われなかったんですか?」
「え?」
「ほら」
神官が指をさす方を見ると、神殿の横隅に大きな扉があった。
そして、チーン、というレンジのような音がした後に、その扉が開き、中から複数の冒険者が出てきた。
「仲間の一人がゴブリンにやられてしまいました!治療をお願いします!」
大剣を背負った冒険者が負傷した仲間を運び込み、その周りで他の冒険者が心配そうに見つめていた。
冒険者の声が聞こえたのか、奥から神官が駆けつけてきた。
「これはひどい……。すぐに奥へ!」
神官が冒険者たちを誘導し、奥の方へ消えていった。
「エレベーターあったんかいぃぃ!!!」
俺は、盛大にツッコんだ。
そんなものがあるなら、苦労して、大階段を上る必要はなかったじゃないか。
というか、なんでそんな技術が存在するんだ。
ここは、どういう文明設定なんだよ。
色々とツッコミが止まらなかった。
「まあまあ、細かいことはお気になさらず」
「えっ!今、心の中読みました!?」
「いやはや、そんな力はございませんよ」
驚いている俺に対し、目の前の神官は平然とした態度だった。
あれ、気のせいだったのか。
まあいい。
目的はそんなことではないのだからな。
「ではでは、少しばかりあなたのことを見させてもらいますよ」
ふむふむとつぶやきながら、神官は鑑定するかのように俺のことを見つめてきた。
そして、俺が告げるまでもなく今の職業を見抜いてきた。
「ほおぉ、今の職業は『ツッコミ勇者』ですかー。面白い職業ですな」
「いや、なりたくてなったわけじゃないんです……。そもそも、職業として成り立ってるんですか?これ」
「うーん、間違っては無さそうですがね。とりあえず、神のお告げを伝えます。あなたの素質から、導かれるチェンジが可能な職業は——」
チェンジ可能
『漫才師』、『お笑い芸人』、『旅芸人』、『コント師』、『ネタ職人』
……。
………。
…………。
「全部芸人じゃないかっ!!選択肢があるようで、全くないよ!!」
「あなたに合った職業がこれだという神のお導きですよ」
「神様、芸人にしか導いてくれてないんですけど?!」
「そのようですな」
神官は、また平然に言い放つ。
これが俺に与えられた運命だというのだろうか。
認められない。
「あの、他の職業ないんですか?」
「ありますよ」
あっさり神官はそう答えた。
あるのかよ。
それでも、思わず安堵する。
あの中から選べといわれたら、絶望していたところだ。
「もう一度やってみましょう」
「あの、カッコいい感じのをお願いします」
「カッコいい感じですか。分かりました。神があなたの適正に合うと判断されたカッコいい職業は——」
チェンジ可能
『ショート』、『ミディアム』、『パンチパーマ』、『モヒカン(神官のオススメ)』、『ドレッド』
「全部髪型じゃねぇかぁぁ!!ここ美容院だったの?!しかも、さらっとモヒカンおすすめするのやめて!」
「似合うと思ったんですけどね……」
「完全に散髪しようとしてるよね?!仕事紹介する気ないですよね!」
「散髪……ああ!そういうことでしたか!今度こそ分かりました」
「本当に頼みますよ……」
「あなたに合う職業は——」
チェンジ可能
『赤モヒカン』、『青モヒカン』、『緑モヒカン』、『黄モヒカン』、『モヒカンモヒカン』
「色の問題じゃないんだよぉぉ!!それと、モヒカンモヒカンって何?」
「ああ、それはモヒカンの上にモヒカンを重ねた髪型ですよ!私は、おすすめですよ」
「やっぱり、あんたのオススメ入ってきてるよ!そして、散髪する気だよ!違いますよ、俺は仕事を変えたいんです!し・ご・と!!カッコいい職業あるでしょ?!剣士とか魔法使いとか、そういうの!!」
「あーー!こちらの方でしたね。失礼しました」
チェンジ可能
『密売人』、『窃盗犯』、『強盗犯』、『下着泥棒』、『囚人』
「全部、犯罪者じゃないかぁぁ!!さっきから、ふざけてますよね?」
「これも全て、神のお導きです」
「俺、犯罪者に導かれてるの……?」
確信した。
この神官は、完全にふざけている。
俺を転職させる気なんてないようだ。
こんな人を馬鹿にする神官がいて良いのだろうか。
俺は、怒りが込み上げてきたが、もう帰ることにした。
神官に怒るとめんどくさそうだし、これ以上、この神官に付き合うのも疲れる。
「もういいですよ……。帰りますから」
俺がエレベーターに乗って帰ろうとすると、神官に呼び止められた。
「お待ちなさい。鑑定料をまだいただいておりませんぞ」
「鑑定料?何もしてもらってないのに払うわけないだろ、そんなの」
「あなたに合う職業を神から聞いたはずですが?」
「そんなの詐欺だろ。モヒカンしか言ってないだろ」
「詐欺とはとんだ言いがかりですな。実に不敬な方だ。このままでは天罰が下りますぞ?」
「どうせ、天罰もインチキなんだろ」
何もしてもらっていないのに、鑑定料とか言われたので、俺はキレた。
しかも、天罰までも言ってきた。
どれだけ最悪なんだ。
俺は踵を返し、とっとこの場を去ることにする。神官に背を向け歩き出そうとすると——
ヴーンという機械音が後ろから聞こえてきた。
驚いて振り変えると、手にバリカンを持った神官が襲い掛かってきた。
俺は、避けることもできず、神官によって、側頭部の髪を刈り取られた。
【髪型チェンジ完了。髪型が『モヒカン』になりました】
フッさという音と共に、頭部から大量の髪が落ちてきた。
「髪の毛、返せぇこらぁぁ!!!」
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