第40話 変わる
「誰?」
『誰はねぇだろ。一応元カレだぞ』
「何?」
『はぁ、お前も随分と偉くなったみたいだな』
「切るよ」
いつもなら出ない非通知。
たまたまスマホを構っていたので意図せずに受けてしまった相手が自分を捨てていった人間だった。
『慌てるなよ。久しぶりなんだから少しくらい語らい合おうぜ』
自分の中の秋穂と随分と印象が変わっているため、会話のペースが掴めない冬馬はとりあえず時間を使って崩していこうとしていた。
「あなたと話すことなんてないよ」
『まあ、待てって。何も言わずにいなくなったのは謝るからよ』
「謝る?私は感謝してるくらいなのに?」
『感謝?』
思いがけない言葉に困惑してしまうが、もちろん皮肉混じりの言葉である。
「元々無理矢理付き合わされた関係だったんだもん。解放されて精々してるよ」
『へぇ〜、そうかよ。まあ恨みごとくらいは言われると思ってたんだけどな』
「恨みごと?ああ、恨んでるよ。あなたのせいで春斗が離れていったんだもん」
『おいおい。お前が勝手にフッたんだろ?俺はヤレればよかっただけなんだしよ』
「ほんとにクズだね」
わかってはいたが本音を聞かされると呆れてしまう。やっぱり冬馬は最低だと。
『お前、口の聞き方に気を付けろよ。こっちはお前の弱み握ってるんだからな。いつでも世界にむけて発信してやるからな』
「弱み?」
『あられもないお前の姿を見られてみろよ。外も歩けなくなるぜ』
「私もばかだって自覚してるけど、あなたはそれ以上だね。お好きにどうぞ」
挑発してる訳でもなく、自暴自棄になってる訳でもない。やはり会話のイニシアチブを取れない冬馬は秋穂の変化についていけない。
『お前、俺ができないと思って強気だな。いいぜ今すぐにネットに実名で公開して—』
「実名」
『はっ?』
「成人したから実名がでるね。ねぇ、その写真ってあなたにとっては犯罪記録だよ?それが公開されて私が訴えればあなたの名前は犯罪者として世界に発信されるね」
『んだと』
「私、わかったの」
『はっ?』
「私には春斗しかいないって。私のことをわかってくれるのは春斗だけなんだって」
『何言ってるんだ?お前頭大丈夫か?』
夏希との関係を知っている冬馬にとっては違和感しかない発言だ。
「結局、春斗にも私しかいないんだよ」
『……べ〜な。完全にイっちまってるな』
「愛のない人にはわからないでしょ」
『いやいや。お前相当ヤバい……、そうかお前春斗から聞いてやがったのか。それでそんな強気な態度なのか』
先日の一件を夏希からでも聞いているのだろう。後手に回ったかと勝手に後悔をしていると、
「春斗?私、春になったら春斗のところに行くの。今度は邪魔しないでよね」
『……』
「もう2度と連絡してこないでね。ブロックしておくから」
「ツー、ツー」
秋穂はそう宣言すると一方的に通話を切った。
「あ〜、スッキリした。これで心置きなく春斗のとこに行ける」
憑物が取れたかのような晴れやかな表情の秋穂には憂いなど存在しなかった。
♢♢♢♢♢
「お邪魔します」
「桜ちゃん、いらっしゃい」
わざわざ現地で受験しなくてもよかったのに
(ご利益にあやかりたかったみたいよ)
なんの?
(合格者の)
ああ。なるほどね
「地元でも受験できただろ?わざわざこっちにくる必要なかったのに」
「大好きなお兄ちゃんに励まして欲しかったのよ。察してあげようよ」
「お姉ちゃん?」
「違った?」
「ま、まあ、お姉ちゃんに励ましてもらおうとは思ってたけど兄さんには……」
「いまさら必要ないよな。大丈夫。お前ことだから頑張ってきたんだろ?努力が裏切ることはない。俺は何も心配してないからな」
「……うん。頑張る」
「はるくんも大概シスコンよね」
「ちょっとちょっと。なんでヤキモチ焼いてるのさ」
「焼いてません。後でいっぱい甘えるから覚悟しておいてね」
「私もいるので程々にしといてくださいね」
「……実の妹もいれて3人でってのはちょっと」
「何血迷ったこと言ってるの?後でしっかりとお仕置きしてあげるから覚悟しておいて」
「はるくんのえっち」
「私は選択を誤ったみたいですね」
あなたがおかしなことを言ったからだよ
(きみのせいだってわかってなかったの?)
「受験では間違えないようにね」
「……なっちゃん」
「あはははは。せっかく桜ちゃんがきてくれたんだから精がつくもの食べてもらわないとね。バッチリ準備してあるから期待しててね」
「2人は別メニューでお願いしますね」
「なんでよ!」
♢♢♢♢♢
サクラサク
(それだけ?)
そうだよ
(私には電話かけてきてくれたよ)
あの子は照れ屋だからね
(まあ、否定はしないけどね)
「契約できたのか?」
『お姉ちゃんが住んでた部屋が空いてた』
「そうか。引越しはいつだ?」
『1日。手伝いに来てくれる?』
「あ〜」
『わかった』
「まだ何も言ってないだろ」
『わかってて聞いたからわかったって言ってるの』
「……悪いな」
『お兄ちゃんは悪くないでしょ』
「手伝いに行けなくてだよ」
『いいよ。そっちに住んでからお願いすることも出てくるだろうし。その時はよろしくね』
「了解。免許は?」
『交通状況にもよるけど、ないと不便?』
「やっぱり都心に比べるとな」
『様子見てからにするよ』
「助手席に乗せてくれるような相手見つけろよ」
『余計なお世話』
「はいはい」
『お姉ちゃんは?』
「もうすぐ帰ってくると思うぞ」
(私のいない間に密会?)
電話だし
(う、浮気だ〜)
妹だし
(ブラコンのね)
シスコンでもあるけどね
「ただいま〜」
「お帰り」
「桜ちゃんから部屋決まったって連絡きてたよ」
「うん、さっき電話かかってきた」
「そうなの?引越しいつだって?」
「1日だって」
「結構ギリギリだね、私休みだから手伝いに……、はるくんは?」
「行かない、かな?」
「そっか。私行っていい?」
「うん。行ってあげて」
「もちろんおじさん、おばさんも来るんだよね?」
「たぶんね」
「だよね。はるくん、私達のこと話してもいいかな?」
「ん〜、なっちゃんに任せるよ」
「うん、任されたよ」
また春がやってきたね
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