第41話 訪れ
「新見秋穂です、お世話になります」
新年度に変わり2年勤めた美容院を退社し、ヘアメイクアーティストになるためにメイクやネイルもしているお店に転職した秋穂は、実家を離れて名古屋で一人暮らしを始めていた。本来ならば姉を頼るところなのだが、良好な関係ではないために自分で作った人脈をツテに新たな生活をスタートさせていた。
新しい職場は前の職場のオーナーに紹介してもらったところで、なんでも美容師学校の同級生が店長を務めているとのこと。
「は〜い、新人の秋穂ちゃんよ。みんな仲良くしてあげてね〜」
店長は元々柔道をしていたらしく典型的なマッチョ体型だ。その反面、性格は優しくかわいいものが大好きないわゆる「オネエ」というカテゴリーに属している。
「新見さんチーフの望月よ。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあ秋穂ちゃんはみどりちゃんにお任せするわ。ヘアメイクをしてたからまずはどれだけできるか確認してちょうだいね」
「わかりました。じゃあ新見さん、今日は予約も結構入ってるから未指名のお客様担当してもらおうかな」
「よろしくお願いします」
♢♢♢♢♢
「お久しぶりです」
「久しぶりね、なっちゃん。しばらく会わないうちに随分と大人の女性になっちゃったわね」
「あははは。ありがとうございます。最後に会ったのは私がまだ制服着てた頃でしたからね」
「夏希ちゃん、手伝いにきてくれてありがとうね。桜から聞いてるけど春斗も随分とお世話になっているみたいで。重ねてありがとう」
「いえ。お世話なんて」
「してるでしょ?まあ、お姉ちゃんにそのつもりはないかもしれないけどね」
「はるくんもいろいろやってくれてるからね。えっとおじさん、おばさんはどこまで聞いてますか?」
「ん?春斗からは何も。桜には夏希ちゃんと一緒に住んでるって聞いてるよ」
「そうでしたか。一応同棲は認めてもらってるってことでいいんですか?」
「自分で稼いでるお金で生活してるみたいだし、夏希ちゃんも大人だからね。正直僕達には何も言えないよ」
「ありがとうございます」
「ほんとにごめんなさいね。私達のせいで親子関係が拗れてしまってるからいろいろ気苦労させてしまって」
「いえ。うちも似たようなものですから。それに原因はうちの秋穂にありますから」
「あの子も随分と変わったね。小さい頃はおとなしい子だって印象しかなかったのに」
「……」
「冬馬くんもね。しばらく姿見てないのよ」
「彼は仕事でこっちに住んでるみたいですから」
「それで。昔からつかみどころのない子だったけど、要領は良かったからね」
「そうですね」
「なっちゃん、同棲のこと親御さんは知ってるの?」
「同棲のことは父には伝えてあります」
「了承してもらってるのね?」
「はい、大丈夫です」
「私達はよくてもお宅の場合は女の子だからね。将来のことも考えると簡単にはいかないんだよ」
「お父さん、私の方に向かって言わないでもらえる?そんな相手いないから心配しなくてもいいよ」
「たぶん、新見さんも同じこと考えてたと思うぞ」
「あははは。確かにそうかもしれませんね。でも私達の場合は将来的なことも含めて一緒に暮らしてますから」
「ごめんなさいね。さっきからなっちゃんの左手が気になってたんだけど……」
「これですか?はるくんにもらったエンゲージリングです。普段使いできるようにシンプルなデザインのものを選んでくれたそうです」
選ぶの大変だったんだよ?
(悩んでくれた甲斐は十分にあったよね)
あのときのあなたの表情は忘れられないよ
(……生きてきた中で1番うれしかったのよ)
「婚約したのかい?」
「はい。はるくんが卒業してから結婚することになってます」
「そんな大事なこと……、いや、春斗の気持ちを考えたら仕方ないのか」
「はるくんには今日伝えるからと言ってありますよ。はるくんも了承してくれました」
「……そうかい。重ね重ね申し訳ない」
「いえいえ。私も両親には伝えてませんし。事後に葉書でも送ろうと思ってますから」
「事前に伝えるべきだと思うわよ」
「あまり詳しくは話せないんですが、事前に伝えることはできないんです」
彼女のことがあるからだね?
(そう。父に反対されるのはわかりきってるもの)
「反対される可能性があるの?」
「はい。私達とは関係ない理由ですので」
「ひょっとして秋穂ちゃん絡み?」
「……」
「お母さん。お姉ちゃんもよく考えてのことだから口出ししないであげて」
「そうだけど、結婚は2人だけの問題じゃないからね」
「わかったよ」
「お父さん?」
「夏希ちゃん。2人の好きなようにすればいいよ。春斗は嫌がるだろうけど何かあったら頼ってくれないか?」
「……はい」
「お父さん」
「お前も、新見さんには夏希ちゃんが言うまで何も言うなよ」
「最近はあまり関わることがないわよ」
「お2人にもご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「お姉ちゃん?」
「夏希ちゃん、頭を上げてくれないか。私達は君に感謝しかないんだから」
「そうだよお姉ちゃん。お兄ちゃんを立ち直らせてくれたのはお姉ちゃんなんだからね」
そう、あなたに会えたから僕は生きていくことができたんだよ
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