第36話 芽

「ひっさしぶりの大学ね〜」


「3月まで通ってたよね?」


あなたは忘れん坊さんなんだね


(感情に浸らせてよ)


「やっぱり大学のキャンパスって広いんですね」


「高校と比べると特にね。どこか見たいところある?カフェとか食堂とか?」


「なっちゃんが来た理由がわかったよ」


「ちょっとはるくん、そんな呆れ顔するのやめてよ」


「まあ、お姉ちゃんらしくていいですよ?」


「桜ちゃんまで」


(一番思い出がある場所なんだもん)


仕方ないね


「じゃあカフェでも行こうか。ゆっくりお茶でもしながら行き先決めればいいだろ」


「さすがはるくん。話がわかるね」


「どちらが年上かわかりませんね」


「そうだな」


「……否定したいようなしたくないような」


「かわいいってことでいいんじゃない?」


「……兄さんも大概ですね」


呆れてるのかな?


(そうみたいね)


「夏希さん!」


「あっ!美樹ちゃん。なんでいるの?」


「えっ?それって私のセリフですよね?」


「ごめんね伊藤さん、なっちゃん疲れてるんだよ」


「内藤ですけどね。ネタにするのは—って夏希さん、顔が怖いんですけど」


「ふ〜ん。私が卒業してから随分と仲良くなったのねぇ。ちょっと詳しい話聞かせてもらえないかしらね」


普通じゃない?


(知らない)


ヤキモチ焼くあなたもかわいらしいんだよね


(そういうとこよね)


「相変わらずですね。大丈夫です。誰も古川くんにちょっかい出してませんから」


「なっちゃんだけだよ。僕の相手してくれるのは」


「妹の前でイチャイチャしないでもらえますかね?恥ずかしくてしょうがありません」


「あっ、妹さん?夏希さんの?古川くんの?」


「えへへへ。2人のよ」


「へっ?」


「お姉ちゃん、混乱させてる。すみません、古川桜です。こちらの大学希望でオープンキャンパスに来ました」


「古川くんの妹さん?お兄さんと同じ学部の内藤です。来年入学したらうちのサークルにどうかな?」


「美樹ちゃん仕事が早いね」


「由季さん仕込みですから!詳しい話は夏希さんに聞いておいてね。私は今からおかげ横丁に行きますので。夏希さん、今度ゆっくりお茶しましょう」


(きみとのことをもう少し聞いておくべきだったわね)


聞くことなんてないと思うよ


(ふ〜ん?)


「懐かしいなサークル」


「街歩き?」


「うん、桜ちゃんも興味あったらぜひ。はるくんも何度か誘ったんだけどね」


「ごめんね。途中から俺といたせいであまり行けてなかったよね」


「それは私がはるくんと一緒にいたかっただけだからいいの」


「まあ、いまさらだけど我慢させてたのかなって」


「兄さんももう少し協調性ってものを養うべきだと思いますよ」


「最低限は持ち合わせてるつもりだけどね」


「ふふふ。2人ではいろんなところに行ったもんね。私にとってはその方が大事な思い出だよ」


「あの、私一人で見学してきていいですか?」


♢♢♢♢♢


「ねぇ桜ちゃん、その後秋穂には会った?」


「見かけることはあっても向こうから話しかけてくることはないよ」


目的は果たしたからね


(何事もなくてよかったけどね)


「そっか、いろいろ迷惑かけてごめんね」


「ううん、大丈夫です。お姉ちゃんこそ、就職して大変でしょ?兄さんはちゃんとお手伝いしてる?」


(違う心配もしてくれたみたいよ)


あなたに迷惑かけてると思われてるみたいだね


(そんなこと全くないのにね)


「それこそ心配いらないよ。は思いやりのある人だもん。ちゃんと私のことを気づかってくれてるよ」


「ならいいです。婚約したって聞いたときはびっくりしたけどちゃんとやっていけそうで安心しました」


「桜ちゃんお母さんみたいだね」


「そ、そんなことないですよ。お姉ちゃんに迷惑かけてないか心配なだけで」


「でも、はるくんがそんなことするわけないわけで?」


「……はい」


「ちゃんと信頼してるんだね。っと着いたよ」


(あの子は私達が再会したあのアパートを下宿先に希望したね)


その方が安心できたんだろうね


(そうね。体験談が聞けるしね)


「空き部屋は……あ、ありそうです」


「はるくんが借りてた部屋が空いてるね。来年まで空いてるといいけどね」


「決まり次第早めに契約しないと」


「現在の勝率は?」


「兄さんのときよりは高いと思いますよ」


「ふふふ、そう言えばはるくんって奇跡だって言われたんだっけ?」


「春先まではちゃんと受験勉強してなかったはずです。家にいてもスマホ構ってるかゲームしてましたから」


「そうか。今じゃ全然ゲームなんてやらないのにね」


「そんなことしてたらお姉ちゃんに怒られるしね」


「そんなことないよ?」


「拗ねるだけ?」


「そんなことは……あるかもね」 


「全く。ごはんはお姉ちゃんが作るんですか?」


「はるくんもバイトがあるからね。家に帰ってくるのははるくんの方が遅いくらいだから」


「お姉ちゃんは頑張り過ぎないようにしてくださいよ。たまには兄さんに甘えないとだめですよ?」


「ん?いつも甘えてるよ?」


「……たぶん、私が言ってる甘えてるとお姉ちゃんがしている甘えるは意味合いが違うと思いますよ」


「あはははは。まあ気付いてたけどね?でもそっちもちゃんと甘えてるから心配しないでね」


「バイトとフルタイムの正社員じゃ違いはあるんじゃないですか?ちゃんと役割分担しないとだめですよ?はじめが肝心なんですからね?」


「はいはい。ちゃんとやるからね、小姑さん?」


「あっ?そう言ういいかたするんですね?しっかりと嫁いびりしますからね」


「お手柔らかにね。っと、ちょっとごめんね。もしもし?」


なるほど、僕を置いていったのは素行調査をしてたからなんだね


(聞かれて困ることないでしょ?)


心当たりはないね


「ごめんね、仕事の電話だったから」


「いえ、お構いなく」


「明日は岐阜に行く予定だったんだけど、急遽豊田に行くことになったの」


「豊田?たしか挙母自動車の本社があるところでしたっけ?」


「そう。本当は違う人が行く予定だったんだけどね。工場でお祭りもあるからついでに取材させてもらえることになってね。お店以外の取材したことないからって私も行くことになったの」


(挙母自動車に、ね)

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