第32話 糧

「新人!そんな靴じゃ取材できね〜ぞ!」


(最初は足を引っ張ってばかりだったわ)


新人だもんね


「すません、履き替えます」


「なんだ新人、替えの靴持ち歩いてるのか?」


「通勤用の靴があるんで。一駅分歩いてるんですよ」


「おう、若いのに健康的だな」


「柴田さんには体力勝負だって言われてますから」


(サークルのOGなの)


誘ってもらったんだよね


(しっかりお願いしたけどね。面倒みてくださいって)


あなたが後輩って立場は想像つかないよ


(そう?かわいい後輩と評判よ?)


言葉通りに捉えていいのか疑問だよ


(あ〜!信用してないな〜)


かわいいって言葉は否定しないよ


(ふふふふ。ありがとう)


「そうか、あんた柴田の後輩だったな。しっかりしごいてやるから覚悟しておきな」


「はい、よろしくお願いします」 


♢♢♢♢♢


「なつ、ランチ行こう」


「柴田さん、ちょっとだけ待ってください。午前中のメモの整理だけっと……、はい、お待たせしました」



「仕事はどう?藤田さんにしごかれてるみたいだけど」


(教育係の藤田さんは柴田さんの教育係もしてたんだって)


ベテランさんなんだ


(本当は編集長でもおかしくないんだけど、取材が大好きな人だから断ったみたい)


「声が大きいからたまにビクッてなっちゃいますけど、いい勉強させてもらってます」


「あははは、地声がでかいからね。でも新人教育ではピカ一だと思うよ。私の時もだけどすごく考えさせられた。感じろ、考えろ、現場では絶対に気抜くなってね」


「それでも取材先ではすごく和やかな雰囲気なんですよね。はじめはあのギャップに驚きましたよ」


「そうね。私はなつの左薬指のヒカリモノに驚いたわよ」


(隠す必要もないしね)


御守りみたいなものだから


「えへへへへ。婚約しちゃいました」


「あららら。式はいつなの?」


「彼、まだ学生なんですよ。なので来年度卒業してからの予定です」


「そっか、で結婚はしてから仕事はどうするの?」


「もちろん続けますよ!子供ができても在宅でやりたいなって思ってます」


「そっ、じゃあそれまでにしっかり藤田さんにしごいてもらいなさい。半人前じゃ在宅でなんて任せられないからね」


「大丈夫です。彼のためにも頑張ります」


「あんた、ベタ惚れなのね」


♢♢♢♢♢


「ほへ〜、疲れた」


「お疲れ様」


「うん、今日もいっぱい歩いたよ。なにごとも経験だ!現場を知らないやつは上に立つ資格がねぇって、耳タコだよ」


今の時代は情報に頼りがちだからね


(自分で感じたことを表現しろって。他人の真似事なんてするなって言われたわ)


期待されてたんだね


(かな?)


「明日は休みでしょ?久しぶりにゆっくりできるね」


「でも平日だからはるくん大学あるじゃない。バイトだってあるし。これじゃあすれ違いだ〜」


「一緒に住んでなければね。はいっ、おいで」


「んっ!あ〜、はるくんに包まれる〜」


「仕事に家事に頑張ってるなっちゃんに俺ができることはあまりないからね。膝枕でも腕枕でもするからね」


「ほんと?じゃあ胸枕でお願いします」


「ん?選択肢に入ってないね?」


「いいから早く」


「はいはい」


「ちゃんとギューってしてね?」


「甘えん坊だなぁ」


「疲れてる時くらい、いいでしょ」


「おや?疲れてる時だけなんだ」


「いいから癒して」


「しょうがないな」


(きみが抱きしめてくれるから仕事だって頑張れたのよ)


お役に立てて光栄です


「で、仕事は慣れたの?」


「ん〜?まだまだ。今までは好きなだけで街歩きしてたじゃない?それが仕事になると見方も変えないといけないな〜って。立地条件はどうなのか?とか周りの住人の年齢層とかね」


「まあ、好きだけじゃダメなんだろうね」


「うん。だからとりあえずは今までの固定観念を壊してる最中。藤田さんっていう人が教育係なんだけど、いっぱいダメ出ししてもらって少しでも早く自立したいなって思ってるの」


「なっちゃんは頑張り過ぎるところがあるから無理し過ぎないたようにね」


「うん。でも早く仕事覚えないと在宅で仕事てきないからね。パソコンももっとできるようにならなきゃ」


「テレワーク?」


「うん!できれば2年以内にはそのレベルにはしたいかな?」


「……そのこころは?」


「……早くはるくんとの子供欲しいな、ってね」


(きみのように優しい子)


あなたのようにあたたかい子


「2人っきりもいいんだけどね。若いうちに生んでおけば巣立つのも早くなるでしょ?そうすれば子育て終わってからの楽しみも増えるなぁ〜って思って」


「さすがなっちゃん。すでに人生設計出来上がってたんだ」


「ふふん。当たり前でしょ?子供は2人は欲しいんだ。一姫二太郎だね」


「そればっかりは縁だろうけどね」


「柴田さん曰く、酔っ払ってるときは女の子らしいよ」


「それって根拠あるの?」


「柴田さんの知り合いの人の経験談。なので根拠はないに等しいです」


あなたに似てくれればどちらでも


(きみに似て欲しいよ)


あなたは忙しいときこそ生き生きとしてるね


(やることが明白だからね)


「うんしょっと、お米ありがとうね。ちゃちゃっとごはんの準備するから待っててね」


「うん?デザートからじゃなかったんだ」


「えっち」


「じゃあ今日はデザートなし—」


「デザートは最後って決まってるの。いろいろと準備があるんだからね」


「え〜、いまさらだと思うんだけど」


「とっても甘いデザートを用意するから、その前にごはんね!」


♢♢♢♢♢


「はい、OKです」


「どれどれ?ん〜、よくできてるじゃない。モデルさんの特徴をよく掴んでるわね」


「ありがとうございます」


「来月からはあきちゃんにもカットしてもらうからね」


「はい、頑張ります」


「ふふふ。これでまた一歩、夢に近づいたわね」


「まだまだですよ。今度オーナーにもメイクさせてくださいよ」


「いいわよ。デートの時にでもお願いしようかしら」


「それって暗に断ってますか?」


「ちょっとあきちゃん、辛辣なこと言ってくれるわね?」


「あははは。早くその機会作ってくださいね」


「うっ!ぜ、善処するわ」



「ここまでは予定通り。3月になったらそっちに行くから、もう少しだけ待っててね春斗」

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