第22話 良さ
「なっちゃん、就職内定おめでとう」
「ふふふ、はるくんありがとう。と、言っても大分前から口約束はしてもらってたんだけどね」
ゴールデンウィーク前だったよね
(うん。正式に決まってホッとしたよ)
「あとは卒論だね」
「うっ、耳が痛い。今日だけは忘れさせて。」
「仕方ないな〜、おいしいもの食べて幸せになろうよ」
「ふふ。幸せになってね」
「なっちゃんのお祝いなのになっちゃんの手作りってね。役立たずでごめんね」
「そこに私の幸せがあるのよ?」
「ご飯作るのに?」
「そうよ。よく胃袋を掴むって言うでしょ?生きてく上で食べるってことは人の人生を左右するくらい重要なのよ。その役割を私ができてるんだから幸せでしょ?」
あなたはロマンチストだよね
(あっ、本当は恋愛脳だと思ったでしょ)
いいがかりだよね
(もう、いいのよ。きみがそばにいてくれるのは幸せなことなのよ)
僕もだよ
「でも来年からは俺もできるようにならないとね」
「なんで?」
「仕事で帰り遅くなることもあるでしょ?なっちゃんばかりじゃあ負担が大きいでしょ」
「全然。一人の時は面倒だなって思う時もあったけど、はるくんと食べるようになってからはどれだけ疲れてても大変だって思ったことはないよ」
「えっ?実際大変だよね?」
「何度も言ってるでしょ?私の料理ではるくんが少しでもよろこんでくれるならそれが私にとっての幸せだよ?」
「あ、ありがとう」
「ふふふっ、どういたしまして」
「……」
「ん?」
「……」
「はるくん、どうしたの?」
「いや、時々思うんだ。なっちゃんがいなかったら俺はどうなってたのかなって。きっと今でも他人を信じることはできなかったんだろうって。この前みたいに桜がきても追い返してたんだろうなって」
「……運命、っていうのとはちょっと違うかな?たまたま私のいる大学に入った。たまたま私の隣の部屋に引っ越してきた。偶然だって言ってしまえばそれまでなんだけどね、その決定にはるくんが少しでも関わってくれているなら、それははるくんが私を選んでくれたってことなのかなって。極論かもしれないけどね」
「なっちゃん」
「でも、いまこうして一緒にいるのは偶然じゃないもんね?」
「だね。一緒にいたいと思うのはなっちゃんだけだね」
「私もはるくんと一緒にいられてうれしいよ。まあ最近うちのサークルでのはるくん人気がすごいのは気に入らないけどね」
(あんな対応するんだもん)
僕のせいなの?
(違うけどね?もう、ただのやきもちなの!)
「あれが噂のハニートラップだったんだね。高校教師とかにしか縁がないと思ってたよ」
「それは……もうごめんなさいとしか言えないけど」
「別に怒ってないから」
「うん、でもね?私が事前に止めてれば」
「なっちゃんの立場が悪くなってたでしょ?」
「それは……わからないけど」
「じゃあいいじゃない。なっちゃんに影響がなかっ—」
「ライバルが増えました!最近美樹ちゃんによく話しかけられてるよね?」
「ああ、そうかもね。でも挨拶程度だしライバルにはなりえないけど?」
「はるくんを疑ってるわけじゃないけどね、正当な評価だけどね。やっぱりヤキモチは焼いちゃうよ」
かわいいよね
(年上だからってヤキモチは焼いちゃうよ?)
それはそれでうれしいんだけどね
(素直によろこんでいいのかな〜)
「ヤキモチもいいけど、せっかくの愛情ご飯が冷めちゃうね。いただきます」
「うん、いただきます。はるくん」
「何?」
「いっぱい食べてね」
「もちろん」
「デザートもあるよ?」
「あ、はい」
「あれ?反応薄くないかな?」
「そんなことないよ?朝までしっかりと味わうからね?」
「朝まで⁈そ、それはどうかな〜。途中で味がなくなっちゃうかも」
「ガムじゃないんだから」
「そうだね。ガムじゃなくてゴ—」
「はいはい。暴走しないでね?」
「……は〜い」
「うん。あ、ポテサラおいしい!」
「はるくん、ポテサラ好きだよね」
「厚切りのハムの食感とか好き」
「隠し味はね〜」
「愛情でしょ?」
「言わせてよ〜!」
♢♢♢♢♢
「いらっしゃいませ、ってあんた達か」
「こらこら由季、お客さんだよ?」
「あら、失礼いたしました。窓側のテーブル席にどうぞ」
「は〜い。行こうか」
「由季さん、その制服かわいいです」
「ありがとう美樹ちゃん。制服
褒めてくれて」
「い、いえ!制服姿の由季さんがかわいいです」
「はいはい、ありがとうありがとう」
「こらこら由季、後輩いじめないの。パワハラよ?」
「へ〜、なつ今の言葉よく覚えておきなさいよ?」
女性同士って怖いよね
(そうかしらね?)
ごめんなさい
なんでもないです
(そう?)
「やっと女子会ができたわね」
「はい。先輩達の就活や卒論の準備が始まっちゃいましたからね」
「卒論ね。私卒業できるかな?」
「なつさん卒論うまくいってないんですか?」
「あはははは。聞かないで」
「お待たせ〜」
「あ、由季お疲れ様」
「今日も朝から忙しかったよ〜」
「ゆきさんお疲れ様です。朝からだったんですか?」
「そうなのよ雫。ほら、私はなつと違って彼氏もいないからね?頑張ってお金稼いでるのよ」
先輩はいつもバイトしてたよね
(そうだね。たまに講義休んでバイトに入ってたからね)
「彼氏か〜、夏希さんうらやましいな〜」
「美樹、最近こればっかりなんですよ。なつさんがうらやましいって」
「ちょ、ちょっとしーちゃん!誤解されるような言い方やめてよ!」
「へ〜、美樹ちゃん。誤解なのかな?」
「や、やめてくださいよ由季さん。私はただ夏希さんが幸せそうでうらやましいってだけで古川くんが彼氏でいいな、なんて言ってません!」
「うん?私も春斗くんの名前なんて出してないよ?ね、なつ?」
「えっ?私?別に美樹ちゃんに嫉妬なんてしてないよ」
「うわっ、なつさん自爆してどうするんですか」
「あんたも正直ね。見なさいよ、美樹ちゃんが震え上がってるじゃない」
「わ、わたし夏希さんから古川くん奪おうなんて考えてませんから!」
「……本当に?」
「なつ?」
「本当に思ってない?」
「なつさん?」
「ホントの本当にはるくんのこと狙ってない?」
だれも狙わないよ
(きみは黙ってて)
……はい
「は、はい。たしかにちょっといいなって思いましたし、こんな人が彼氏なら幸せなんだろうなとは思いましたけど夏希さんから奪おうなんてことは考えていませんから!」
「はるくんは素敵な男性よ?」
「知ってます」
「はるくんといると幸せなのよ」
「くっ!そ、想像できます」
「それでも狙ってないの?」
「……正直、古川くんは夏希さんしか見てないと思います」
「あ〜、そうね。春斗くんはなつ一筋ってすごくわかるもんね」
「えっ?そ、そうかな?」
「そうです。だけど友達くらいにはなれたらうれしいなって思ってます。夏希さん友達なら許してもらえますか?」
「えっ?それは私がとやかく言うことじゃないし。それにね美樹ちゃん。はるくんが評価されることはすごくうれしいの。まあ正直に言うとヤキモチは焼いちゃうけどね。それでも好きな人のことをわかってもらえるのはうれしいかな」
「私が1番わかってるしね」
「こら由季、ちゃちゃ入れないの」
「だってさ美樹」
「うん。夏希さん、わかりました。適切な距離感で古川くんに接していきますね」
「ふふふ、はい。ヤキモチ焼くけど我慢してね?」
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