第21話 ハニートラップ
「適当に食べるからよかったのに」
「い・や!はるくんのご飯は私が作るんだからね」
「無理はしないでよ」
「してないよ?食べてもらえるの楽しみだもの。温めて食べてね」
「全く。ありがとうね」
「じゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃい、頑張ってね」
またあの人波に飛び込もうなんて思わないよ
(新入生にしてはちょっとした恐怖だよね)
軽くトラウマになるくらいにね
「と、その前に。んっ!」
「はいはい、口?」
「んっ!」
(ラブラブの新婚さんみたいね)
はいはい
♢♢♢♢♢
「おはよう〜」
「夏希さん、おはようございます」
「良かった〜。なつさん本当に来てくれるのかヒヤヒヤしてたんですよ」
「ん?私ちゃんと由季に行くって返事したよね?」
「私もちゃんと伝えたよ?新歓はこれないけど勧誘は来るよって。これじゃあ私が犯人みたいじゃない」
クラブハウスに行くと、すでに数人が集まっていた。
「なつ。今日、春斗くんはバイト?」
「お昼過ぎからね。今日は21時までだって言ってたからゆっくり夕食の準備ができるわ」
「夏希さん、完全に主婦ですね。同棲してるんですよね?いいな〜甘い生活。彼氏さん優しそうですもんね。家事も手伝ってくれるんですか?」
「羨ましかろう〜。食事と洗濯以外は手伝ってくれるよ」
「ちょっと、惚気話長くなるからなつに話振るのやめなさい。春斗くんのことになると止まらなくなるからね」
「なによ由季、みんなが聞きたいって言ってるんだから語らせてよ」
どんな話してたのさ
(せ、世間話よ)
怪しいよね
「そんな時間ないからまたの機会にしようね」
「ちょっと?」
「お〜、新見久しぶり。今日はしっかり働いてもらうからな」
「名倉くん、久しぶりだね。あまり顔出せなくてごめんね」
「まあ、俺たちの学年だと出てこなくてなるやつも増えてくるからしょうがないだろ」
「だね。今日は頑張るよ」
「頼りにしてます」
信頼されてたよね
(人徳よ)
そうだね
(あれ?そこを素直に受け止めてられるとちょっと恥ずかしいね)
そう?
本当のことだからね
「なつさん、去年同様俺とペアっす」
「うふふ、任せたよ堀くん」
「ウス。今年は7:3で女子多めに狙っていきます」
「だから堀くんは女子が引く発言をやめなさいって言うの」
「なんすか由季さん。これでも人気者で通ってるんすよ?コンパに引っ張りだこっす」
「あ〜、だろうね」
「ですね。堀先輩コンパにいると他の人が楽ですよね」
「はいはい。由季も美樹ちゃんもとりあえず堀くんの人気の程は置いといて」
「なつさん?」
人気者なの?
(希少価値があるのかもね)
へ〜
♢♢♢♢♢
「ふ〜、みんなお疲れ様。とりあえず名前書いてくれたのが32人か。初日から大収穫と言っていいだろう」
「やっぱ俺の活躍なくして語れないっすね部長」
「あ〜、まあ0とは言えないな。お前と新見で15人か。全員男子だけどな」
「うっ」
「やっぱりなつの力ね。後は何人残るかだね。新歓でしっかりとホールドするわよ」
「あはははは。私も大したことしてないからね。新歓は出れないからみんなよろしくね」
お酒好きなのに
(きみより好きなものはないのよ)
食べるの?
(いただきます)
「なつさん、やっぱり新歓来てくださいよ」
「ごめんね堀くん。もう飲み会は行かないって決めたんだ」
「夏希さん、彼氏さんが嫌がるんですか?束縛されてるんですか?」
「嫌がらないし束縛もされてないよ?少しくらいヤキモチ焼いて欲しいくらいよ!」
「こらこらなつ。ちゃんと大切にされてるじゃない。春斗くんに言いつけるわよ?」
「えっ?由季から見ても大切にされてると思う?そうなんだよね。年下なのに包容力があると言うか、私のことを1番に考え—」
「はいはいストップ!惚気話はいりません。とにかく新歓は任せといて。なつは春斗くんとイチャイチャしてなさい」
♢♢♢♢♢
「はい?」
「だからね。下の子達はなつにどうしても来て欲しいんだって。それで春斗くんに説得してもらいたいんだけど正攻法でいっても断られるだろうから弱みを掴むためにハニートラップを仕掛けるって意気込んでるのよ」
「ちょっと待ってよ由季!春斗くんに迷惑かけるって言うの?そんなことするなら私は今すぐにサークル辞めるよ!」
「ちょっ、ちょっと落ち着きなさいよなつ。あなたが怒るのもしょうがないと思うけど後輩達の気持ちもね?たしかにやろうとしてることは迷惑なだけで無駄なことだけど、それくらいあなたは慕われてるのよ」
「だからってはるくんには関係ない話よ」
「そこは同感よ、彼にとってはいい迷惑」
「だったら」
「どっちみちハニートラップなんて無駄でしょ?」
「えっ?」
「だって春斗くんよ?」
「うん」
「なつの彼氏よ」
「そうよ」
「なつのことが大好きな彼氏よ」
「よ、よくわかってるじゃないの」
「今日も新入生男子を撃墜したなつの彼氏よ」
「それはよくわからない」
「とにかく、春斗くんはなつ以外に興味ないんだからハニートラップなんて無駄でしょ?」
「そ、そうね。私のことが大好きなはるくんが他の女に興味持つ訳ないじゃない」
「でしょ?だから少しだけ目を瞑ってあげてくれないかな?事前に春斗くんに言ってもらってもいいし、私もちゃんと頭下げるからさ」
「……由季」
「そうすればあの子達も少しは納得できると思うんだ」
「まあ、私が悪いのかもしれないけどね。それでも考えは変わらないよ?私ははるくんのそばにいたいの。誰かと、ううん。大事な人と食事するって大切なことだと思うんだ。食べるって生きるってことでしょ?入学してきた時はあまり食べてくれなかったはるくんが最近ではおかわりまでしてくれるようになってくれたんだよ?死にたくなるくらい辛い思いをしたはるくんが生きていくために私はそばで寄り添っていたいの」
あなたとの食事は特別な時間だったよ
(うん、幸せな時間よ)
「うん、なつの考えはわかってる」
「ありがとう。その、ハニートラップの件だけどやる意味ないよね?」
「ないね」
「それでもやるの?」
「私は反対したよ」
「はぁ〜、わかった。それでみんなが納得するなら、ね。そのかわり、それ以上のことをしたら」
「わかってる。そんなことさせないから」
「うん」
「ごめんねなつ。今度奢るから春斗くんとモーニングきてね」
「せこい!安上がりだよね」
「おいしいよ?」
「知ってるけど!」
「まあまあいいじゃない。あ、ちなみに仕掛け人は美樹ちゃんね。あの子胸だけはなつ以上だからね」
「えっ?」
♢♢♢♢♢
「よし、美樹ちゃん。いまやつの周りには誰もいない。このチャンスを逃すな!」
「い、行きます」
「あ、あの古川くん」
「はい?」
「こここ、ここ座ってもいいかな?」
「うん。誰も座ってないよ」
「あ、じゃあ失礼します」
「よし!第一関門突破だな。あとは美樹ちゃんのダイナマイトバディで悩殺するだけだぜ」
「堀先輩、双眼鏡とデジカメ没収です」
「いやいや待て!カメラがなきゃ証拠写真が撮れないだろ」
「先輩が撮る必要ないです。私達が撮りますから」
「いや、でも」
「由季さんに言いつけますよ?」
「おい!」
「あ、静かに!美樹が仕掛けましたよ」
「古川くんって夏希さんと同棲してるんだよね?」
「ああ、君はなっちゃんと同じサークルの子だ。さっきから見たことあるなとは思ってたんだよ」
「えっ?あの、私一応同じゼミなんだけど?」
「えっ?そうなの?ごめんね。全然ゼミの人覚えてないかも」
「なんかポカンとしてますね。でもいい具合に胸元チラッとさせてますね」
「でも彼氏さん、全く見てないよ。見ようとしてないって感じじゃなくて興味ない感じじゃない?」
「いやいや。ありえないでしょ?あのダイナマイトバディだぜ?興味ないやつは男じゃねぇよ」
「でも、あの夏希さんの彼氏さんですよ?」
「ま、まあ確かにな」
「あの古川くん。ひょっとしなくても私の名前なんて……」
「あ〜、ごめんなさい。わからないね」
「あ、そう、ですか」
「すみませんね。あ、そうそう、これよかったら使ってください」
「えっ?これあなたの上着?」
「さすがにノースリーブじゃ寒いでしょ?それにそんな格好じゃ君の魅力が減少しちゃうよ。露出控えた方が素敵だよ」
「えっ?あ、ありがとうございます」
「それはなっちゃんに渡しておいてくれるかな?僕から話しはしておくから。じゃあよろしくね」
「あっ」
♢♢♢♢♢
「で、全く相手にされなかったと」
「……はい」
「だから言ったでしょ?無駄だって」
「いや。今回はたまたまっす。次こそは!」
「次はないよ」
「えっ?なつさん?」
(ちゃんと見張ってたのよ?)
誰を?
(ん?ん〜?)
「もう気が済んだでしょ?これ以上は私も怒るよ?」
「……すみませんでした」
「はい。私もごめんね。でも、決めたことだから。飲み会はね。昼間のお茶会とかなら大丈夫だから今度女子会でもしようね」
「夏希さん!」
「ちょっとなつさん!ナチュラルにハブらないでくださいよ」
「堀くんは由季から説教だって」
「……まじっすか」
結局怒られたんだね
(そりゃね。ミイラ取りがミイラになっちゃったしね)
「ん?美樹ちゃん、熱ある?顔赤いよ?」
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