第19話 人気者

「鉄板?」


「そう、名古屋が発祥らしいよ。鉄板全体に薄く卵焼きをひいてその上にナポリタンを乗せるの。名付けて鉄板ナポリタン」


「なんでなっちゃんがドヤ顔なのさ」


料理を語るあなたはすごく饒舌だよね


(自信のある時にしか語らないのよ)


なるほど


「い、いいじゃないのよ〜。あ、それでね桜ちゃん。なんで鉄板かと言うとね、食べてる最中に冷めちゃわないようになんだって。温かいまま食べて欲しいって気持ちわかるよね〜」


「料理は愛情ですね。だからお姉ちゃんの料理はおいしいのですね。勉強になります」


「ふふふん、そうよ桜ちゃん。私の料理にははるくんと桜ちゃんへの愛が溢れてるのよ」


(知ってたかな?)


もちろん


(本当かなぁ)


感謝でいっぱいだよ


(……うん)


「でもこの鉄板ってやっぱり他店との差別化を図るために導入したってのもあるだろうね。鉄板で出すから卵焼きも活きてくるし、インパクトをということも考えると……ってなんで2人してジト目で見てくるのさ」


「はるくん、そこは愛情で終わろうよ」


「兄さん、お姉ちゃんの愛情をちゃんと感じてください」


「なぜか悪者?」


(しかたないよね?)


ちゃんとあなたの愛情は感じてるよ


(もっと感じてよ)


僕の愛情は感じてくれた?


(もちろんよ)


「はるくん?」


「はいはい。大好きだよなっちゃん」


「う〜ん?なんか軽いなぁ。はるくんもう一回!」


「ええ〜、もう。なっちゃん?」


「なあにはるくん」


「愛してるよ」


「あ、うぅぅうん。わ、私も愛してる、よ」


人に要求して何照れてるんだろうね


(そ、それはそれ。これはこれよ)


「なんですかこの茶番は。ベタ過ぎて若干引いてしまいました」


「ふふ〜ん。桜ちゃんも素敵な彼氏作ってね」


「そんな茶番はしませんけどね」


(茶番じゃないのにね)


兄妹がイチャイチャしてるのを見せつけられるのもね


(いいじゃない。ほのぼのするでしょ?)


しないと思うよ?


(もうっ、そうだねでいいじゃない)


「ところで桜ちゃん、好きな人はいるの?というか本当は彼氏いる?」


「い、いいじゃないですか私の話なんて」


「露骨に話逸らそうとするなよ。なっちゃんはしつこいぞ」


「ちょっとはるくん言い方!諦め悪いくらいにしといてくれないかな?」


「いや、あまり変わらないよね?」


「はいはい、仲良いのはわかりましたから冷めないうちにいただいちゃいましょうよ。鉄板だってさめちゃいますからね」


「たしかにね。で、冷めない桜ちゃんの恋心はどうなってるの?」


「……冷たいままですよ」


「温めようよ、桜ちゃんも彼氏ができたら一緒に遊びにきてね。兄妹でダブルデートなんておもしろいよね」


「「絶対に嫌」」


ないでしょ


(ありでしょ)


「私はしたいの!桜ちゃんとデートしたいのよ」


「じゃあ2人でデートしてこれば解決じゃない?」


「ん?ん〜ん?そうか。仕方ない、それで妥協しよう。じゃあ明日は桜ちゃんとデートしてくるからはるくんはお留守番しててね」


「はいはい。俺は朝からバイトだけどね」


「じゃあちょうどよかった。桜ちゃんいい?」


「あ、はい。お姉ちゃんとお出かけ楽しみです。本当は明日帰ろうと思ってたんですが明後日に変更しますね」


「楽しみだなぁ、桜ちゃん行きたいところある?遊園地?動物園?水族館?あ、街歩きとかウィンドウショッピングとかでもいいよね。桜ちゃんに似合う服探すのとか」


「なっちゃん、楽しそうだね」


「うん!」


「私も楽しみです。せっかくなんで街歩きかウインドウショッピングがいいですね。2人でのんびりしたいです」


「了解。帰ったら一緒に行くところ考えようね」


あなたは本当の妹以上に可愛がってくれたよね


(素直でいい子なんだもん)


僕には辛辣だよ?


(恥ずかしいだけよ。お兄ちゃんのこと大好きなんだから)


昔はよく後ろにくっついてきてたよね


(そうね。きみはそんなあの子の手をしっかり握ってたもんね)


忘れたよ


(照れ屋さん)


♢♢♢♢♢


「はぁ?なつさん新歓もこないんすか?」


「堀くん、うるさい!そんなに驚くことじゃないでしょ?追いコンだってこなかったんだから」


名大街歩きサークル「るんるんぶ」

夏希が所属するこのサークルは新学期の訪れを迎えて新入生を獲得するために動いていた。


「やっぱり勧誘する人間は厳選する方がいいと思うんだ。第一印象って大事だろ?だから堀、ごめんな」


「な、どういうことっすか部長。俺が最前列に立たなきゃこの戦、勝てませんよ?」


クラブハウスには夏希の親友のほかに、部長の名倉要なぐらかなめや後輩の堀など10名ほどのメンバーが集まっていた。幽霊部員なども合わせると80人以上の人間が登録されている。


「あんたは誰と戦うつもりよ?去年だって春斗くんの勧誘に失敗したじゃない」


ため息混じりに堀を責める由季を部長の名倉が嗜めた。


「まあどちらにしても彼はどこのサークルにも入る気がなかったんだろ?じゃあ誰が勧誘しても結果は一緒だったろ。今年は一味違うところ見せてもらおうじゃないか」


「うっ!名倉さんハードル上げないでくださいよ。頑張りはしますけど結果はねぇ?」


さっきまでの威勢はどこにいったと由季は頭を押さえた。


「あの〜、夏希さんの彼氏って経済学部の古川くんですよね?私ゼミ一緒なんですけど彼に夏希さんを説得してもらえばいいんじゃないですか?」


「いや〜、美樹ちゃん。それ夏希にバレると怒られると思うよ?関係ない春斗くんを巻き込むわけだからね」


「なるほど、弱みに付け込めばいいんじゃないですか?」


「堀くん、春斗くんの弱みに握ってるの?」


「いやまさか、これから仕掛けるんすよ」


嫌な予感しかしない由季の顔が引きつる。


「参考までに聞かせてもらっていいかな堀くんの作戦」


「もちろんっす。あの弱っちそうな1年にハニトラ使うんですよ、で証拠を押さえたところで交渉っすね。どうっすか?完璧っしょ?」


クラブハウス内にシラけたムードが立ち込める中でこの案に賛同の声が上がった。


「私やります!夏希さんと飲みたいですもん!任せてください」


「いやいや美樹ちゃん。絶対やめて?取り返しのつかないことになるからね?」


「大丈夫です由季さん。夏希さんにバレないようにうまくやりますから!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る