第18話 季節の変わり目

あの子はあなたにの弟子になったね


(そうね。あの子が冒険者だったなんて知らなかったわ)


「ちょ、ちょっと桜ちゃんストップ!」


「ん?どうして?」


まさかだったよね


(まさかだったわね)


世間では女子だと思われてたらしいよ


(私もそう思ってたよ)


「桜ちゃんの持っているのは何?」


「塩ですよ?」


「うん。桜ちゃん何作ってたっけ?」


「お姉ちゃん、ボケるのはまだ早いかと思いますよ?クッキー作ろうって言い出したのはお姉ちゃんのはずでは?」


「OK、じゃあその手のものは一旦置こうか?」


家でも手伝いくらいはしてたと思うんだけど


(どこまで手伝ってかよね)


「桜、せっかくだからおいしいクッキーが食べたい」


「兄さんは黙ってて。私とお姉ちゃんが作るんだからおいしくなるに決まってます」


「なっちゃんだけならな」


「はるくん、かわいい妹の手作りクッキーを楽しみにしててね、


「……了解」


「さ、桜ちゃん気を取り直して砂糖入れようか」


「あっ、……そうですね。砂糖入れますね」


「くっくっくっ」


「ちょっとお姉ちゃん待っててくださいね。外野の調理が必要になったみたいです」


「はいはい。桜ちゃんお兄ちゃんはおいしいおやつでやっつけようね。はるくんはおとなしくね?」


「ぐぬぬ。待ってなさいよ兄さん。後で土下座させてあげますからね!」


「ま、まあ楽しみにしてるから」


笑いが止まらなかったんだよね


(あの子は真剣だったのよ?)


それがわかったからなおさらね


でも気持ちは伝わってきたよ


「なっちゃん夕方からバイトでしょ?」


「うん、20時までね」


「じゃあさ、シニョーラ行こうか?」


あなたに教えてもらった喫茶店


(レストラン代わりだったよね)


モーニングには行かなかったね


(朝は式部庵だからね)


「うん、了解」


「今日バイトないから送り迎えするよ」


「ありがとう。ふふふ、清香ちゃんにひやかされちゃう」


(かわいい教え子よ)


美人さんだったよね


(ちょっと?その通りだけど他の子褒めるのはどうなのかな?)


あなたは外見だけじゃないからね


「清香ちゃん?」


「私の教え子よ、家庭教師をしてるの。桜ちゃんの一つ上ね」


「へぇ〜、小さい頃はよくお姉ちゃんに宿題教えてもらってましたね」


「そうだったね。はるくんはすぐ飽きちゃってたけど、桜ちゃんは根気よく勉強してたもんね」


「はい。お姉ちゃんの説明はとてもわかりやすかったので勉強がはかどりましたから。私も来年名大受けますからね」


「え?お前こっちくるの?」


「いけませんか?」


「だめとは言わないけどな」


どさくさに紛れて両親が寄り付くようになったら厄介だからね


(かわいい妹はかわいい娘だからね)


「余計なの連れてくるなよ」


「……はい」


「桜ちゃん、焼けたみたいだからオーブン見てこようか」


「ほら、桜行っておいで」


「兄さん」


「ん?」


「私はお兄ちゃんの味方だからね」


「……そうか」


♢♢♢♢♢


「はいOK、8割正解だね」


「ん〜、やっぱりミスってたか〜」


「思い当たるとこがあったみたいね。間違えたところチェックして終わりにしようね」


「は〜い」


『コンコン』


「失礼します。夏希さんお茶淹れたのでどうぞ」


「香澄ちゃんありがとう。清香ちゃん休憩しようか」


「うん。お姉ちゃんありがとう」


「どういたしまして」


「夏希さん、清香から聞いたんですけど同棲始めたんですよね?そ、それでどうですか?いつも好きな人と一緒にいられるわけじゃないですか?お休みの日は一日中イチャイチャしてるんですよね?あ、イチャイチャって別にエッチなことだけの意味じゃなくてですね—」


「わかった、ちょっと落ち着こうか香澄ちゃん」


「お姉ちゃん興奮し過ぎて引くんですけど。大方自分がお兄ちゃんと同棲してる姿を見て想像してるんでしょ?片思いのくせに」


「うっ!か、片思いはお互いさまでしょ」


「残念、私は来年から同じ高校に入ってアピールするからね。一緒の学校にいるのに相手にされてないお姉ちゃんとは違います」


「はいはい。2人ともそのくらいにしようね。清香ちゃんもそのためにも勉強頑張らなきゃね。そろそろ再開しようか」


「は〜い。じゃあお姉ちゃんハウス」


「ハウスって犬じゃないんだから」


「全く、仲良し姉妹ね」


♢♢♢♢♢


「兄さん、どこ行くの?」


「2時間しかないからその辺をぶらぶらだな」


「……そう」


「行きたいところあったか?」


「そういう訳じゃないんだけどね……。」


「うん?」


「兄さん、いま幸せ?」


「なんだよ突然」


「わかってるでしょ?」


「……まあ、な。幸せ、だと思うぞ。じゃないな。こんな言い方じゃあなっちゃんに怒られるな。幸せだ。感謝してもしきれないほどなっちゃんには感謝してる。もしなっちゃんと再会してなかったら俺は一生立ち直れなかっただろうな」


「側から見ても愛されてるのがわかります。私は、兄さんが大変な時に何も出来ませんでした。あんなに苦しんでた兄さんに声をかけることすらできませんでした。本当にごめんなさい」


「お前が謝ることなんてないだろ」


「でも!私は兄さんが浮気なんてする人じゃないって知ってました!なのに、なのに傍観するだけで何も、何もしませんでした。私もお母さん達と同じだったと思います」


「桜、もう終わったことだよ。今俺は幸せなんだからそれでいいだろ。まあ、だからと言って母さん達を許す気にはならないけどな」


「じゃあ兄さん、もう実家には戻る気はありませんか?」


「ないな」


「わかりました。私も大学はこっちにきますね」


(お兄ちゃん想いね)


優しい子なんだよ


(……知ってるよ)


うん


あなたも助けてくれるからね


(いっぱいね)


「は?こっちにくるのか?」


「別に一緒に住みたいとかじゃないですからね?もう家にいたくないだけです」


「そっか」


「も、もう。そうやって子供扱いしないでください」


「そんなつもりじゃないんだけどな。好きだったろ?頭撫でられるの」


「誰でもいい訳じゃありませんから」


(ツンデレ?)


かもね


(ある意味ライバルね)


あなた以上の人はいないよ


僕にはね

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