第17話 春の桜

あなたは4年生


(きみは2年生)


春の訪れと共にひとつ屋根の下で暮らし始めた


(フレッシュマンじゃないのに新生活ね)


「ねぇ、はるくん。やっぱり家賃は折半にしようよ。明らかに食費よりも高いよ」


「いいよ、僕の方が稼げてるんだから。ちゃんと貯金もしてたから大丈夫」


(きみがバイトと株やらでサラリーマン以上の年収があるって聞いたときには驚きを通り越して引いたよ)


なんでさ?


(私の方が年上なのに)


「……でも、」


「一足先に新婚さん気分味わってよ」


(そうきましたか)


断れないよね


「……ばか」


「あれ?なっちゃん顔赤いよ?風邪でも引い—」


「てないから!わかってて言わないの!もう!」


「なっちゃん」


「なんですか⁈」


「これからよろしくね」


「……はい。こちらこそ不束者ですがよろしくお願いします」


「その言い方だと結婚したみたいだね」


「あ、はるくん顔赤いよ?風邪かな?」


「照れてるんだよ」


「自分だけ素直にズルイよ」


素直はいいことだよね


(……はい)


「メゾネットの2LDKで75000円、大学まで電車で3駅、車で20分。駐車場もあるしね。でもはるくんのだけ離れた貸し駐車場でごめんね」


「中古だってば明らかに型落ちだからね?」


PEUGEOTの206だよ


(はいはい、ラリーで走ってたやつね)


「でもまだ買ったばかりで初心者マークも付いてるし」


「初心者マークは余計なお世話です。もうすぐ取れるからね」


「だね。式部庵は少し遠くなったけど、またこの街でいいお店探さないとね」


「なっちゃん街歩き好きだもんね」


「それが仕事にもなるわけだし、自分の引出し増やしておかなきゃね。荷物片付いたら散歩行こうね」


「了解。さっさと片付けちゃおう」


♢♢♢♢♢


「今日はこのくらいにして買い物行こうか?」


「そうね。晩御飯遅くなっちゃうもんね」


「なっちゃんも疲れてるだろうからどこかに食べに行こうか?」


「ん?私の料理じゃご不満かな?」


「いや、逆だよ。下手なお店で食べるよりなっちゃん食べた方が断然おいしいよ」


「はるくん、はるくん。言葉間違ってるからね?」


「まあ、なっちゃんがいれば満足ってことだよ」


「えへへへ。そう言ってもらえるとうれしいな。胃袋と心奪っちゃった」


「だね。っと、じゃあ出かける前に試食を……」


「んっ、ふぅぅん。はるくんキスし出すと中々止まらないから買い物行けなくなっちゃうよ?」


『ピンポーン』


「ん?家具屋さんかな?」


「俺出るよ」


引越したばかりで誰も知らなかったはずなのに


(驚いたでしょ?)


そりゃ驚くよ


「ちょ、ちょっと待って!」


「はるくん、どなた?」


「なっちゃん?なんで笑ってるの?」


『早く開けなさいよ!』


「は〜い。待ってね」


『ガチャ』


「なつお姉ちゃん!」


「いらっしゃい、桜ちゃん」


連絡とってなかった妹が突然現れたんだからね


(私が連絡取ったんだもん)


連絡先知ってたの?


(お父さんにこっそり私の連絡先を伝えてもらったのよ)



「で、お前は何しにきたの?」


「兄さん、それが1年以上も会ってなかった妹に対する態度ですか?事情は察するところはありますがかわいい妹にくらい連絡するべきだったと反省してください」


「かわいくねぇ〜」


「なんです?なつお姉ちゃんみたいな美人さんと同棲はじめたって結局兄さんは兄さんなんで調子に乗らないでください」


かわいい妹だよね


(素直になれない年頃なのよ)


「まあまあ、桜ちゃんもせっかきてくれたことだし買い出しに行ってご飯食べようよ。桜ちゃん泊まってくよね?」


「追い出せばいいよ。せっかくの初夜なんだから」


「ちょっとはるくん?恥ずかしい言い方しないでよ!」


「しょ、しょやって!まさか兄さん、なつお姉ちゃん食べちゃったわけじゃないでしょうね?」


「桜ちゃん、ちょっと言い方考えようね。はるくんもよ?」


「なっちゃんに言われたくないよ」


全くだよ


(えへへへ)


「まあ、なつお姉ちゃんが納得してるならいいです」


「うん、納得というよりwelcomeよ?」


「えっ?」


「桜、深く考えるなよ。なっちゃん車回してくるよ」



♢♢♢♢♢


「安心しました」


「ん?」


「なつお姉ちゃん、昔のお兄ちゃんに戻してくれてありがとう」


「桜ちゃん……」


「あの時、私は受験生で蚊帳の外だった。気づいた時にはお兄ちゃんは引き籠っていました。子供の私にできることなんてなくって。でもお兄ちゃんが他人を傷つけるようなことをするなんて信じれなくって」


「そうだね桜ちゃん。信じる必要ないよ。だって嘘だもんね」


「……お姉ちゃん」


「はるくんはもう大丈夫だから。私から見てもすごく逞しくなったよ」


「惚れちゃうくらいに?」


「えへへへ。うん、惚れちゃうくらいに」


「あ〜も〜、なんか心配して損した気分。リア充爆発しろだよ」


『ププー!』


「あ、はるくんかな?行こうか桜ちゃん」


「うん」


♢♢♢♢♢


deux zero six206だ。兄さん、相変わらずラリー好きなのね」


「まあな。ランエボやインプとだと燃費がな。これも街乗り用だよ」


(くるくる回るのが好きなんだよね)


ばかにしてるよね?


(してないよ?だって好きなことを話してるきみの顔を見るのは大好きだもの)


「さ、行こうよ。今日は特別に桜ちゃんにナビシート譲ってあげるから」


あなた専用なんだけどね


(かわいい妹のためよ)


「えっ?兄さんの隣なんて嫌です。なつお姉ちゃん、一緒に後ろに乗りましょう」


「もう、桜ちゃんも照れ屋さんね。いいから前に座りなさい。お姉ちゃん命令よ?」


「……横暴だよ」


「桜、観念しろよ。なっちゃんの頑固さは筋金入りだぞ?」


(ん?素直な性格よ?)


ん?自称ね


(違うわよ)


「今日だけね」


「そうよ、本当は私専用なんだから」


「はいはい、ありがとうね」


♢♢♢♢♢


「美味しい。兄さんいつもなつお姉ちゃんに作ってもらってるのですか?」


「そうだな」


「もう外食できませんね」


「したいとも思わないな」


「妹の前で惚気ないでくださいよ」


「間違った感想じゃないだろ?」


「まあ、納得しちゃいますけど」


「はいはい、2人ともありがとうね。私が恥ずかしくなってきたからその辺でストップね。ところで桜ちゃん、いつまでいられるの?」


「お邪魔みたいなので明日には帰ります。心配することもないみたいですしね」


「全然邪魔なんかじゃないよ!気にしなくても大丈夫だから。春休み中とは言わないけど予定がないならもう少しいてよ。いろいろ話しようよ」


「兄さん?」


「せっかくだからな。泊まってけよ」


(素直じゃないなぁ)


気になることもあったしね


「じゃあ少しだけお世話になりますね」


「ん、ところで桜」


「なんです?」


「父さん達は知ってるのか?」


「ああ。兄さんに会いに行くと言ってきました。同棲のことは知らないかと」


「そっか。わかってると思うけど」


「言いませんよ。私はなつお姉ちゃんの味方ですからね」


(この子はブラコンなのよ)


知ってるよ


僕もシスコンだからね

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