第8話 仮面と本音
「なつ? おーい! なつー! 聞いてるの?」
「耳元で大きな声ださないでよ。ちゃんと起きてるよ」
「いや、聞いてる? って言ったんだけど。あんた最近ぼーっとしてるけど大丈夫?」
(この頃の私は悩みを抱えてたのよ)
就活かな?
(ブッ、ブー。ベタすぎてつまらないよ?)
ギャグのつもりじゃないし
「ん〜、ちょっと考えごとかな? 迷宮入りしちゃった」
「話聞くよ? 講義終わったらカフェ行こうか?」
「ん〜、もう少し考えてから話すよ。ありがとね
(ある程度考えがまとまらないとうまく伝えられないんだよね)
自分が理解してないと伝えるのって難しいよね
「ねぇ、由季。天岩戸ってどう開くの?」
「は? あんた天照大神にでも会いたいわけ?」
日本書紀かな
(やっぱり宴会じゃない?)
安直だよ
(焦ってたんだよ)
「ん〜? ただの幼馴染だよ」
ただのね
(捻くれ者の)
そうだね
「やっぱりカフェ行こう。一緒に天岩戸の開け方考えてあげるから」
「ん。サンキュ」
♢♢♢♢♢
「で、天岩戸ってなんなのよ?」
「うん。実はね—」
(私はきみに会ってからのことを話したの)
僕は天照大神だったわけだ
「なるほどね。幼馴染くんが隣に引っ越してきた上に後輩になってたからうれしくて柄にもなくはしゃいでやり過ぎたってわけね?」
「はしゃいでなんて———」
(私、はしゃいでた?)
よろこんでくれてたんだ
(うれしかったよ。当たり前でしょ?)
僕にはわからないよ
「いたんでしょ? いいことだと思うよ。やっと明るくなってきたって思ってたんだ。でも」
「にゃにしゅるにょよ、いひゃいにゃにゃい」
「うん、なつのほっぺはぷにぷにね。じゃなくてね、この嘘っぽい仮面をさっさと外しなさい」
(バカ力で摘んだんだよ? 顔潰れるかと思ったよ)
パワフルな人だからね
「仮面って? 私、変な顔でもしてる?」
「笑顔がぎこちない。確かにあの時に私は無理にでも笑えって言ったよ。でも人に何か伝えたいなら本音で、本心で話さないと伝わらないよ?何か事情がありそうだし、上辺だけの親切なんて迷惑がられるだけだよ」
(だよね。傷付いたきみに嘘で固めた私が受け入れられるわけないもんね)
素直さはあなたのいいところだよ
「迷惑か。……そうだね、お姉さんぶるのは辞めるよ。普通に、言いたいこと言って聞きたいこと聞く。お節介って思われるかもしれないけど、いまのままでいいとは思わないから」
「よし! もう良さそうだね。じゃあ晩御飯はパスタにでもしようか!」
催促だね
「よ〜し! って奢らないよ?」
(私の親友はちゃっかりしてるからね。)
「ん〜、じゃあ材料買ってくからなつの家で食べようよ。うまくいけば幼馴染くんに会えるでしょ?」
「そうだけど、会ってどうするつもり?」
(興味津々だったみたい)
ご期待に添えずに申し訳ないですね
「ん? 私は何もしないよ。なつを見守るだけだから」
「なるほど、ご飯食べにくるだけか。まあ相談乗ってもらったし、それくらいさせてもらうよ」
(結局、きみは帰ってこなかったよね)
バイトだったんだ
苦学生だったからね
「残念。幼馴染くんは帰ってこなかったか。次の機会を狙うわ。じゃあね」
♢♢♢♢♢
「あっ!」
(思いがけずに願いが叶ったから言葉が上手く出なかったよ)
僕は思わず逃げようとしたけどね
「おはよう、はるくん。今から講義?」
「おはよう、ございます」
「この前はごめんね。迷惑省みずに行動しちゃって。ちょっと話したいことがあるの。はるくんの都合に合わせるから少しだけ、私に時間くれない?」
(緊張したよ? あれだけ取り乱したはるくん見た後だったからね。)
穏やかな口調なのに目で訴えてきてたよね
(うん。逃す気はなかったよ?)
「……毎日バイトで忙しいので」
「ご飯食べながらでもいいの。よかったら私が作るから。だからお願い。はるくんと話がしたいの。」
「好奇心、ですか?」
(トゲがあったよね?)
覚えてないよ
「あのね。とりあえずこれだけ見せておくね。」
「スマホ?」
「うん。これ見てくれる?」
びっくりしたよ
(だよね。まさか彼女達の写真見せられるとは思わないよね)
「な、なんでこんな———」
「待ってはるくん! 見て欲しいのはこれなの。これは2年前のクリスマスの写真なの」
逃げ出す寸前に捕まったね
「えっ? なんでなっちゃんがこんな写真を持ってるの?」
「うん。さすがにここで話すのはね。はるくん、いつならいいかな?」
あなたがなんでこんな写真を持っているのかわからなかった
あなたが何を知っているのかわからなかった
あなたが何を聞きたいのかわからなかった
あなたが何をしたいのか知りたかった
「……土曜の午前中なら時間あります」
「ふぅ。うん、ありがとう。じゃあはるくんの準備ができたら家にきてもらえるかな?お昼ご飯用意するから一緒に食べようね。これでも一人暮らししてるからそこそこはできるんだよ。だからね? 約束してね」
あなたは僕の返事も聞かずに行ってしまった。残された僕は記憶の蓋を必死に押さえつけていた。開いてしまえば心が壊れてしまいそうな。
だから僕は感情を押し殺した。
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