五
「で、どんなもん?」
「どんなもんて?」
「入れられた感じはさ。気持ちよかったーっていうふうには見えなかったけど」
「痛くはなかった。ていうか、あんまりよく覚えてない」
「だから無理なんかしなくていいんだよ。お互いが気持ちよくなる方法はいくらでもある。いままでみたいにこすり合うだけでも」
「気持ちよかった」
「ん?」
「またしようってことだよ」
横から橘さんに抱きついて、俺は額を擦りつけた。頭を離して見上げれば、首を傾けている橘さんと目が合った。
どきどきしてしまう。
ちょっとだけ、橘さんのいくときの声を思い出した。時と場合によっては、起つかもしれない起爆剤になり得る。
「佑、きょうは眠くならないんだね。いつもは、俺のを蛇の生殺ししてくれるのに」
「うん……ね」
「やっぱり完全に気持ちよくはなれなかったってことか」
「橘さんは?」
「……いいに決まってるでしょ」
「じゃあ、俺も満足。気持ちよかった」
ウソでも、女の子みたいにあんあん言えばよかったのかな。橘さんのためにも。
ただ、あそこの満たされ感が半端なくて、なにも考えられなかった。見た目以上の大きさと硬さに、俺のあらゆる器官がびっくりしていた。
そんな、一人反省会をしているうちに、うつらうつらしてきた。
だけど、ふと思い出したことがあって、俺はガバッと上体を起こした。
「そうだ」
「うーん……どうした?」
半分寝ていたのか、橘さんは気だるそうに俺の腰をさすった。
それにしても、いまここでこんなことを訊いてもいいのだろうか。
しかし、時間はもうなかった。
「橘さんさ、いま欲しいものとかある?」
「だからどうした、急に」
「だって、今週誕生日じゃん」
「……え? あれ、今月って」
「八月だよ」
「あ、ほんとだ。誕生日くるね」
なんと、橘さんは素で忘れていたらしい。
もし言わなかったらスルーできたのかな……って、それだけはいかん。いかん。
誕生日のお祝いはなにより大切なものだ。
「なるほど。誕生日プレゼント、俺にくれんのね」
「そう思ってたんだけど、なにやっていいかわからなくて」
「ああ、もうもらったからいいよ」
「へ?」
「これ」
と、橘さんはずっと撫でていた腰から手を滑らせ、俺の尻を軽く叩いた。
「きみをもらった」
「出た出た。それ、絶対に言うと思った」
「あ、そう?」
と笑ったあと、橘さんは本当に眠そうで、意識を上下させていた。
「ゆーちゃん。俺ね、もう目が開かね」
「ん、いいよ。寝て」
「おやすみ、ね」
「うん。……ねえ、橘さん?」
呼びかけても橘さんの反応がなくなった。
いままでは、俺が先に寝落ちることがほとんどだったから、なんだか嬉しい気持ちもあった。
眠るまでそばで見守る。そんな俺の存在に安心しきって深いところまで落ちていく。
その姿に、またいとおしさを感じた。橘さんのおでこを撫で、髪を梳く。
眉間に口づけを乗せ、おやすみなさいを言う。
寝息を聞きながらきょうのことを振り返っていると、お母さんとの電話も思い出した。
……帰ったら、少しは話さなくちゃいけなくなるな。
そうしたらどうなるかを想像すると、怖い気持ちにもなる。だけど、いずれは直面する問題だ。橘さんといると覚悟を決めたからには。
俺たちは一人じゃない。
だから俺も、その辺りのことは、橘さんにちゃんと相談しなきゃいけないと思った。
きっと、あしたからまた大変な毎日が始まる。
でも、二人なら困難は半分に、楽しいことは倍になるから、一緒にどこまでも歩いて行こう。……いや、歩いて行ってください。
俺は、橘さんの無防備な指を一本一本開いて、自分の手を合わせる。ぎゅっと握ったら、俺の願いにも応えるように、ゆっくりと力が込められた。
デカラバ! もりひろ @morishimahiroi
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