「で、どんなもん?」

「どんなもんて?」

「入れられた感じはさ。気持ちよかったーっていうふうには見えなかったけど」

「痛くはなかった。ていうか、あんまりよく覚えてない」

「だから無理なんかしなくていいんだよ。お互いが気持ちよくなる方法はいくらでもある。いままでみたいにこすり合うだけでも」

「気持ちよかった」

「ん?」

「またしようってことだよ」


 横から橘さんに抱きついて、俺は額を擦りつけた。頭を離して見上げれば、首を傾けている橘さんと目が合った。

 どきどきしてしまう。

 ちょっとだけ、橘さんのいくときの声を思い出した。時と場合によっては、起つかもしれない起爆剤になり得る。


「佑、きょうは眠くならないんだね。いつもは、俺のを蛇の生殺ししてくれるのに」

「うん……ね」

「やっぱり完全に気持ちよくはなれなかったってことか」

「橘さんは?」

「……いいに決まってるでしょ」

「じゃあ、俺も満足。気持ちよかった」


 ウソでも、女の子みたいにあんあん言えばよかったのかな。橘さんのためにも。

 ただ、あそこの満たされ感が半端なくて、なにも考えられなかった。見た目以上の大きさと硬さに、俺のあらゆる器官がびっくりしていた。

 そんな、一人反省会をしているうちに、うつらうつらしてきた。

 だけど、ふと思い出したことがあって、俺はガバッと上体を起こした。


「そうだ」

「うーん……どうした?」


 半分寝ていたのか、橘さんは気だるそうに俺の腰をさすった。

 それにしても、いまここでこんなことを訊いてもいいのだろうか。

 しかし、時間はもうなかった。


「橘さんさ、いま欲しいものとかある?」

「だからどうした、急に」

「だって、今週誕生日じゃん」

「……え? あれ、今月って」

「八月だよ」

「あ、ほんとだ。誕生日くるね」


 なんと、橘さんは素で忘れていたらしい。

 もし言わなかったらスルーできたのかな……って、それだけはいかん。いかん。

 誕生日のお祝いはなにより大切なものだ。


「なるほど。誕生日プレゼント、俺にくれんのね」

「そう思ってたんだけど、なにやっていいかわからなくて」

「ああ、もうもらったからいいよ」

「へ?」

「これ」


 と、橘さんはずっと撫でていた腰から手を滑らせ、俺の尻を軽く叩いた。


「きみをもらった」

「出た出た。それ、絶対に言うと思った」

「あ、そう?」


 と笑ったあと、橘さんは本当に眠そうで、意識を上下させていた。


「ゆーちゃん。俺ね、もう目が開かね」

「ん、いいよ。寝て」

「おやすみ、ね」

「うん。……ねえ、橘さん?」


 呼びかけても橘さんの反応がなくなった。

 いままでは、俺が先に寝落ちることがほとんどだったから、なんだか嬉しい気持ちもあった。

 眠るまでそばで見守る。そんな俺の存在に安心しきって深いところまで落ちていく。

 その姿に、またいとおしさを感じた。橘さんのおでこを撫で、髪を梳く。

 眉間に口づけを乗せ、おやすみなさいを言う。

 寝息を聞きながらきょうのことを振り返っていると、お母さんとの電話も思い出した。

 ……帰ったら、少しは話さなくちゃいけなくなるな。

 そうしたらどうなるかを想像すると、怖い気持ちにもなる。だけど、いずれは直面する問題だ。橘さんといると覚悟を決めたからには。

 俺たちは一人じゃない。

 だから俺も、その辺りのことは、橘さんにちゃんと相談しなきゃいけないと思った。

 きっと、あしたからまた大変な毎日が始まる。

 でも、二人なら困難は半分に、楽しいことは倍になるから、一緒にどこまでも歩いて行こう。……いや、歩いて行ってください。

 俺は、橘さんの無防備な指を一本一本開いて、自分の手を合わせる。ぎゅっと握ったら、俺の願いにも応えるように、ゆっくりと力が込められた。




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デカラバ! もりひろ @morishimahiroi

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