「なに。なんで笑うんだよ!」


 俺は、ばっと上体を起こした。


「だってさ、はりつけにされる人じゃないんだから、そんな真っ直ぐ棒みたいに寝てなくてもいいのにと思って」

「う、うるさいな」

「やべ、いまの写真撮っとけばよかった。佑、ちょいもう一回やってみてくれる?」


 いえ、いまはそんな雰囲気のときではないんです。

 俺は唇を尖らせて、そういうふうに橘さんを見上げた。


「橘さん、俺ね、おっきどころじゃないの」

「もしかして、さっき洗ったときに感じちゃってた? というかさ、今度それやるときは、俺に一言言ってね。見ててあげるから」


 ローションやコンドーさん、タオルなんかをベッドに並べながら、恥ずかしげもなく橘さんは言う。

 俺は、ぷいと横を向いた。


「あんなの見せるくらいなら死ねる。それに、あいにくと感じてませんので」

「だよね。あれで感じるようなら、だいぶ素質が備わってるってことだから」

「こういうときばっかりベラベラになる口。やめて。も、早くしろよ」

「はいはい」


 橘さんは覆い被さるようにして、俺をベッドへ押し倒した。キスの角度と深度を変えながら、俺のパジャマを開いていく。

 首筋、鎖骨、おヘソに口づけをして、胸には舌で触れてきた。捏ねたり押したりもする。


「ん、橘さん……」


 パジャマのズボンとパンツを一気に脱がされた。

 足の付け根まで丹念に責められ、そこをまた喉で吸い上げられ、いく寸前で解放された。

 はあはあ言いながら橘さんに目をやると、満足げに舌を覗かせ、上半身裸になった。

 いよいよ始まるんだ。

 分厚目なクッションを俺の腰の下に挟み、橘さんはローションのボトルを開けた。


「ね、ねえ。橘さん」

「ん? つか、なに。もう止めらんねえよ」

「わかってる。なるべく痛くしないでください」

「なるべく、ね。大丈夫、じっくりゆっくり解す予定だから。だから、あんま煽らないでね」


 橘さんは優しくキスをして、でも少し乱暴に、俺の腰を上に向けさせた。

 ローションを絡めた指で何度か周りを撫でてから、橘さんはまず一本入れてきた。

 俺のほうからすると、なにかが入ってきたって感覚しかない。指一本なら、自分でもちょっと入れたことがあるし。

 だけど、橘さんの指は俺のより長く、思いのほか奥までいってしまって、身がすくんだ。

 もう一本増えた。今度は違和感で呼吸が早くなってしまう。汗もどっと吹き出した。


「佑。俺のを入れるとなると、三本で慣らさないとだから、もう一本増やすね」


 指が三本になったら、結構激しく出し入れしてくる。ローションのお陰なのか、橘さんのテクニックなのか、痛みはほとんどない。でも、ものすごく気持ちいいってわけでもない。

 後ろを解しているあいだも橘さんはずっと俺のを扱いている。そして、具合を掴むようにひとしきり中をたしかめたあと、取り出した自分のにコンドーさんをつけた。何回かこすってから入り口をつつく。

 俺は目をつむって息を止めた。

 しかし、すぐにはこない。橘さんが俺の名を呼んだ。


「……息、止めないでて」


 またキスをくれる。

 俺はちゃんと呼吸をしながらその衝撃に備えた。

 とかく目一杯広げられている感じ。俺は意識していなくても、そこは橘さんのを締めつけているらしく、ちょっと苦しそうな声も聞こえた。


「まずい。やべ。俺のがいきそ」


 ゆっくりと、こじ開けるように突き進んでくる。張り出た引っかかりで浅くこするようにしたり、息を凝らすほど奥深くもぐったりする。

 ときどき俺のを扱きながら、橘さんはいろんなリズムで攻める。そうやって前後で味わわされる熱が、声と吐息に混じって口からも出た。

 途中からはもう、気持ちいいのか苦しいのかわけがわからなかった。橘さんの腕を掴んだまま、ただ喘ぐしかない。

 それでもぶち撒けたい衝動は徐々にせり上がる。


「あっ、橘さんっ、俺いきそう」

「うん。いっていいよ」

「ん、いく。い、く」


 俺が達したあとも、橘さんは腰を動かし続け、やがて短く呻いた。

 いつの間にか俺は泣いていたみたいで、額に汗を浮かべている橘さんが、困ったような顔で目尻にキスをした。

 情けないことに、橘さんとの初めては、「耐えて耐えて、いく」で終わった。

 それにしても体が熱い。

 熱が収まるのを待っているあいだ、萎えないムスコさんを宥めに橘さんは寝室を出ていった。

 そこにはもうないはずなのに、硬さや形を覚えるかのようになにかが残っている。シャワーから上がって、橘さんに腕枕してもらっているときも感じていた。

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