デカラバ! アフター
想い
一
すごくいやな夢を見た。
ダイニングのテーブルに、俺らしき人と橘さんが向かい合うように座って、なにかを話し合っていた。
その光景を、夢の中の俺は、俯瞰でじっと見守っている。
橘さんはとても神妙な面持ちをして、俺らしき人は、なにか負の感情を押さえているような顔だ。
怖い、と思った。
俺の置かれている状況も、二人がなんの話をしているのかも。
いやだ、聞きたくない、と思っているうちに目が覚めた。
周りはまだ暗く、ダブルベッドで一緒に寝ている橘さんは、俺に背を向ける格好で寝息を立てていた。
水を飲みに、キッチンへと立つ。
……本当にいやなものを見た。所詮夢だからと、簡単には片づけられないくらいの。
水を飲みながら、どうしようかと考えたけど、戻らないわけにはいかない。
橘さんを起こさないように気をつけながら、俺は再びベッドへ潜り込んだ。
いやな夢を見るのに、じつは心当たりがあった。
橘さんの挙動が最近おかしいと、なんとなく感じていたからだ。
本島さんの事件から二ヶ月。マスコミの報道合戦も、ようやく下火になって、買い物も一人で行けるようになった。
つい先日は、やっとアパートを解約できて、数少ない荷物を、橘さんのマンションへ移したところだった。
コンビニのほうは、かなり早い段階で辞めた。店長は、ほとぼりが冷めるまで待ってると言ってくれたけど、やっぱり申し訳なくて、退職させてもらった。
橘さんの様子がおかしいのは、もしかしたら、俺がつねに傍にいることに、少なからず戸惑いを感じているからじゃないかと思った。
橘さんがかかりつけにしているクリニックの院長で、女医の松宮さんが言っていたことが思い出される。
橘さんは、自分が刑事であるがゆえに、特定の恋人は作らなかった。危険な職業で、自分の身にいつなにが起こるかわからない。恋人を悲しませたくないから、本気の恋はしてこなかった、と。
それでも俺をこうして傍に置いてくれるのは、そういう危惧をも凌駕する存在だと橘さんは思ってくれているんだと嬉しかった。
でも、やっぱりどこかで俺をお荷物だと感じているんじゃないか。
橘さんの様子がおかしいいま、そういう思いが渦巻き始めている。
ベッドに戻ってから、しばらく考え込んでいると、橘さんの起き上がる気配がした。
サイドボードの携帯を取る音がして、ベッドが上下する。
橘さんは寝室を出ていった。
なんだろう、呼び出しだろうか。でも、携帯は静かだったから、違うと思う。
そんなことを巡らせているうちに、俺はいつの間にか、また眠りについていた。
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