三
ちょっとムカついたけど、もしかしたら新人かもしれないと思って、黙ってドアオープンのボタンを押した。すぐさま玄関へと向かう。
廊下の途中で、ローテーブルに置いてきた携帯がまだ通話中だったことに気づいて、俺はまたリビングへ戻った。
「橘さん? あれ?」
再び玄関に向かいながら話しかけてみたが、橘さんからの応答はなかった。
画面は通話中になっている。
俺が肩をすくめたのとインターホンが鳴ったのは、ほぼ同時だった。俺は、つながったままの携帯を肩に押しつけ、スニーカーをつっかけ、玄関の鍵を開けた。
携帯から、ようやく橘さんの声が聞こえた。
でも俺は、なんの反応もできないでいた。いきなりドアが開いて、男が押し入ってきたからだ。
思わず後ずさったところに、段差があって、俺はしりもちをついた。
男は、さっきの宅配業者とは違った。キャップを目深にかぶっているところは同じだけれど、あの制服は着ていない。
それに、こっちを見下ろすあの目つきに、俺は見覚えがある。
──あいつだ。
「なんで」
ようやく出せたのは、その一言だけ。玄関に落としてしまった携帯から橘さんの声がしても、それを取ることはできなかった。
眼前にそびえ立つ男が首を動かす。
足元の携帯に気づいたらしく、そっちに目をやって、苦痛そうに眉を歪めた。そして、俺の前から静かに姿を消した。
なにがなんだかぜんぜん理解できない。
ただ、心臓だけは、うるさいくらいに警鐘を鳴らしていた。
ようやく耳に入ってきた橘さんの呼び声で、俺は慌てて、携帯に手を伸ばした。
「橘さん、あいつが来た」
「……あいつ?」
「俺を襲ったヤツだよ! どうしよう、逃げてった。追いかけなきゃ……!」
俺は立ち上がり、閉まったドアを開けようとしたけど、橘さんに大声で止められた。
「そんなことよりも大丈夫? なにもされなかった?」
「……うん。それは大丈夫」
こっちで行方を追うから、きょうは絶対に外へ出るなと、橘さんは念を押して電話を切った。
俺は、よもや、またあいつが現れると思ってもいなかったから、心臓のドキドキがいつまでも収まらなかった。
だけど、落ち着いていくに従って、なんでいまこのタイミングで現れたんだろうと、疑問にも思った。
それに、あの目の感じ。
俺を襲おうとか、連れ去ろうとか考えているやつのものには見えなかった。どちらかというと、なにかを訴えているように見えた。
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