それは彼の晴れ晴れしい事


「それで、私を呼んだわけか。ん?もっと早くに考え付かなかったのか?例えば、その頭が完全に埃に染まる前に」


 指さした先のそいつは友人と呼びたくはないほどの、変人の偏屈キチガイだった。

 しかし、時折どうしようもなくなると私を呼ぶことがある。

 唯、その『どうしようもなくなる』というのは、

 本当にこれ以上どうしようもないと二〇人に聞けばまず二〇人が首を振り、

 馬鹿が覗き込んで逃げ出し、そうしてこいつが友人と呼ぶ私が引きずられる事態だ。


 今回は「本を読むのが楽し過ぎて、掃除も食事も忘れ書斎が大惨事になっておりどうしよう」という話だった。


 私が年齢よりも老けて見えて、皴が多い理由がこいつであると本人に理解してほしいものだ。

 宣言通り、書斎は酷い事態になっており、思わず我が家の使用人を呼び出した私へ。

 言うを事欠いて「他人を踏み込ませるな」とは傲慢甚だしい。


「よく考えろ、お前が一冊を読んでいる時は他の読んでいない本の世界は全く無関係だ。」

「無関係の他人が大量にいるんだ。なら、お前の書斎を掃除する人間はお前が読んでいない本か、若しくはお前が今読みながら入り込んでいる世界の住人だ。」

 そう言いきってみせると、そいつは納得した様に頷く


「そしてお前は今から私の屋敷で体を綺麗にされ、丁重に持て成される。それが今回の物語でお前のあらすじだ。」


 続けざまに指を突き付けそういった私に、呆然としたままのそいつはそのまま連れてきていた使用人数人につれていかれて行った。


 どうせ、書斎どころかこのちっぽけな屋敷全体が汚れて切っているのだろう。

 書斎ばっかり立派なこの屋敷ならば、書斎以外は簡単に片が付くが問題の書斎の本の管理は私が適任なのは分かり切っている。


「全く、私の優秀さをこんなところで使わないで頂きたいものだ!!」


 高名な小説家に何をさせるつもりなのか!文句を言いつつ彼奴の屋敷に乗り込む私も随分とお人よしだ。

 彼奴に関わって得があるかと言われれば、ほぼ無きに等しいというのに



「全く!!やってられないな!!」



 彼奴と関わると毎度言っている気がする言葉を叫ぶ。

 馬鹿々々しいほどの晴天にその声は随分と明るく響き渡った。

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