素晴らしい事

史朗十肋 平八

それは彼の素敵なこと


「あなたに秘密があるように私にも秘密がある」


 何処かで聞いた言葉だな、などと思いながら手元の本を閉じた。

 分厚いそれは意外と埃っぽかったらしく、舞い上がった空気が鼻を擽る。


――もう少し掃除をした方がいいかも知れない


 辺りを見回して改めてそう思う。

 別に火事の心配はないが、焼けない様にと灯りは少なく作っている為に薄暗いこの書斎は居心地はいいが、掃除が面倒だ。

 その為に少々サボってしまうのだが、こういう細かな所で被害を被る。


 人を雇って整理した方が良い所蔵量だが、それでもこの空間に他人を踏み込ませるのは嫌だった。




――ここは私の楽園なのだ

 幾度となく読み直し、そして潜り込む

 何度も何度も旅立てる無数の世界



 それを私の今までの時間を費やし、好む言葉や世界で作り上げた


 例え最早蔵書が棚に入らず、積み上がっては所々で崩れてしまっていたとしても、部屋の主である私ですら部屋の絨毯が三歩先も見えないなどとは、実に潔癖で偏屈な友人に聞かれれば、その眉間に二週間は皴が取れそうにない事実であろう。


 それでも私はこの空間を保ちたかった


 けれども時折、埃の下で虫にやられてしまっている物もあることに気付くと整理はしなければ、と思い直す。


 そうだ、埃を無くし、虫干しをすればいい。

 一冊一冊一度空気に触れさせて綺麗に並べた後、部屋全体を掃除すればいい。

 どれだけ時間がかかっても大丈夫だ。


 そんな時は【物語を聞き流す】のだ。

 己が掃除に没頭する世界の住人になるのだ。


 そうすれば、退屈で面倒な時間もきっと楽しいだろう。嗚呼!実に名案だ!!

 あの偏屈の友人にそれを伝えればきっと、「お前にしては賢い選択だ」と褒めたたえるだろう。


 早速始めよう、確かここに再生機もあったはずだと探したところで、そこは物凄い量の本と埃に埋もれていた。

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