校長先生の式辞

1年生の列は担任、川井朱峰に率いられて体育館・講堂に向かった。

(背筋を真っ直ぐ…真っ直ぐ…)

(緊張しちゃう…)

(やっぱり恥ずかしいかも…)

(不安定だ…)

慣れないハイヒールとストッキング&網タイツ二枚穿きに1年生達の足はガクガクブルブルと震え、ヨレヨレと不安定になっていた。

何とか全員がバランスを保ちながら入学式の会場である体育館・講堂に到着した。

体育館・講堂には既に同じく式典用の黒い燕尾バニーに着替えていた2年生、3年生が着席して待機していた。

新規開校した女子兎高等学校では全員が新入生なのだ。

同じく黒い燕尾バニー姿の教職員一同も新入生を取り囲むように待機していた。


壇上右にある司会進行席には女子兎高等学校教頭の阿仁あに辰子たつこが立って司会進行を務めていた。

1年生が椅子の前に立ち並んだのを辰子が確認するとマイクに向かって、

「生徒、教職員、関係者、起立!!」

-ザザッ

座っていた2.3年生と後ろにいた数名の関係者が起立した。

「開式の辞。これより、令和2年度私立女子兎高等学校の入学式を執り行います」

-パチパチ

講堂内に拍手が鳴り響く

「生徒、教職員、関係者、着席!!」

-ザザ

「続きまして、祝電披露!」

女子兎高等学校開校に関して寄せられた祝電が阿仁教頭の口から読み上げられる。

(ああ…脚が…辛い…)

牧達新入生のハイヒールの足は早くも限界に来ていた。

「続きまして、学校長祝辞!全員起立!!」

-ザザ

(んんっ)

(痛ぁ〜)

(このまま立ってろって?)

早くも足の痛みを訴え出す者達も現れはじめた。


壇上に上がったのは校長という肩書にしては若々しいほどの美貌の女性、橋場はしば羊子ようこだった。

橋場羊子が壇上に立ち笑顔を見せた途端、羊子から妖艶かつ厳ついオーラが会場全体に放たれ、全新入生はハイヒールの痛みも忘れるほど硬直してしまった。

「はい!皆さん、新1年生から新2.3年生まで、皆さんいい子ばかりですね!ご入学おめでとうございます!私が私立女子兎高等学校学校長の橋場羊子です!」

優しいのか威厳があるのかわからないまま羊子の式辞は続く。

「さて、皆様は本日より日本初…いえ…世界初の“バニーガール”専門高校第1期生となります。しかしバニーガールに限らず物事には光と影があります。バニーガールになりたい女性は星の数ほどいれど、その実女の子の出入りも激しく、バニーガールのお店も長くお客様に支持される老舗もあればブームに乗って稼いだら踏み台として畳んでしまう店もあります。これは何故か!?また、バニーガールというというだけで不当な見方を被る場合も少なくありません」

新1年生はともかく、新2.3年生はその血生臭い戦いを肌で感じてきた。

「それは何故か!?答えはバニーガールという存在が職業からコスプレ衣装となってしまったため、“バニーガール”は衣装なのか職業なのか曖昧になり、そこへ解釈の齟齬が発生して、バニーガール界全体に従事する人、そして衣装メーカーの質の低下が発生したのです!仮装大賞を見ればわかるでしょう?」

-ざわ…ざわ…

「なので職業としてのバニーガールに誇りが持てない。衣装としてバニーガールのコスプレをしてもプライドを持ってコスプレが出来ない。モラルが育たない。80年代のバブル期の旧態依然とした保守的なイメージにズルズルと凝り固まったまま。誰かが革新を起こそうとすると周囲が寄ってたかって袋叩きにするからイノベーションが起こらない。「バニーガールはかくあるべし!」と内輪に篭り、外からの異分子を受け付けない閉鎖された「ムラ社会化」していく。結果として外部の社会から差別につながる…言わば常に悪循環をきたしていると言えるでしょう」

-ざわ…ざわ…

「だからと言って新入生、転編入生のみなさん。女子兎高等学校我が校を逃げ場にしないでください!“バニーガールになるためなんていやらしい”バニーガールに偏見を持った人間がこのように言ってしまえば議論の余地はありません。しかしそれは思考の停止です!はっきり言いましょう!社会通念や思考停止が“コンプライアンスに則った本当に正しい生き方”だと言うならば、それは正しい生き方ではありません!」

-ざわ…ざわ…

「!?」

「??」

「思考停止、即ち全く変わらないと言う事です!社会に偏見があるのならその間違った見方を我々の手で変えてしまえば良いのです!!そのために転編入生の新2年生、新3年生は1度社会に戦いを挑みました!」

-ざわ…ざわ…

(はっ!?月先輩と望先輩の言っていた…)

「しかし残念ながら1度目の社会への戦いは敗北し、長年の学び舎を追われました。しかし天は貴女達の戦いを決して見捨てなかった!これから式辞致します田沢小町理事長の温情により、雪兎達が活発に動き回る原野に貴女達は反撃の場所を得たのです!!わかりますか?そう、貴女達はもう社会の偏見への敗北者ではありません!アメリカで生まれ、この日本と言う国で進化し、生まれた「日本式バニーガール」の伝統を守りつつ、されど固執せずバニーガールの様々な可能性を見出す「後継者」であり、「革新者(イノベーター)」なのです!!貴女達から、日本のバニーガールは全て変わっていくんです!変えていきましょう!!さぁ、背筋をピンと伸ばして、これからの貴女達に期待しています!」

「い…以上で…校長先生の式辞を終わります!生徒、教職員、関係者、着席!」

-ザザ

-ざわ…ざわ…

あまりの説得力の思い式辞にその場にいた新入生、転編入生、教職員、関係者は言葉も出なかった。

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