理事長の式辞

(校長先生すばらしかったなぁ。あの人の元だったら素晴らしいバニーガールを目指せるかも)

橋場羊子校長の式辞を聞いた牧はますます女子兎高等学校この学校で学んでいく意欲を高めた。


「続きまして、理事長、田沢小町先生の式辞です。全員、起立!」

阿仁辰子教頭の号令で再び全員が席を立ち上がる。

全員にハイヒールの痛みは感じなくなるほど麻痺していた。


壇上に上がったのは私立女子兎高等学校を運営する「学校法人兎学園」の理事長、田沢たざわ小町こまちだった。

壇上に上がった瞬間その燕尾バニー姿から放たれるバニーガールのカリスマとしてのオーラに新入生、転編入生、教職員、関係者一同は凍りついた。

(この人が、仮装大賞でエスコートガールを長年務めている、伝説のバニーガール、田沢小町!)

小町は口元にマイクを近づけると顔を和かにして全体を見渡す。

「みなさんは私を仮装大賞で見た事はあるでしょう?無い人は裏番組を見ていましたね?」

-どっ

会場の凍りついた緊張が堰を切ったように小町のユーモアで解けた。

「さて、最近のバニーガール衣装の乱れの酷さには私自身も危機感を感じています。最近はテレビの地上波でもバニーガールを滅多に見かけなくなり、貴女達“本物に気づいた一握りの女子”を除いて、今の若い人達のような人達は本来の正しいバニーガールの姿見たことがない。本家のPLAYBOYCLUBや老舗のエスカイヤクラブの衣装を見れば、最近格安で出回っているバニーガール衣装がいかにお粗末分かるはず。バニーガールの衣装は明確なコンセプトがあり、すでに完成されています。それなのにそれを知らない他人が「この生地使えば女子ウケするだろう」とか、「ウサ耳がこういう形ならもっと可愛くなりそう」などと浅はかに考えて勝手にアレンジしてしまう。そのアレンジされた衣装には何のコンセプトもなく、ただ「商業として売れれば官軍なんだよ、バニーガールは」と優越感に浸っているだけ。得るのはマウンティングという名の虚しさだけです。バニーガール衣装は本来紳士が着る男子の礼装、燕尾服にタキシードをモチーフにしたもので、公の場特に高級な雰囲気が求められる場にふさわしい衣装としてデザインされたのです!」

(ふむふむ…そうだったのか…!)

「最近出回っているバニーガール衣装もどきは、「フリルドレスにウサ耳付けただけじゃない!?」と目を疑うものが多いです。“耳さえ付いていればバニーガールになる”、のだという間違った認識をこの女子兎高等学校から改めさせていきましょう!!」

(そうだ!その通りだ!)

「その証拠にウサ耳フリルドレスは数少ないイベントの時に着て来るから注目されるのであって、レストランのウェイトレスが毎日ウサ耳フリルドレスにだったら客もすぐ飽きてしまいます!つまり、たまに見る分にはいいが毎日見るとすぐに飽きるデメリットを抱えています!店側はそれを悟り、ウサ耳フリルドレスの衣装を他の衣装に変える!以下無限ループです!つまり、亜流のバニーガール衣装もどきはいずれ自然淘汰されます!」

(すごいや!なんて説得力!)

「女子兎高等学校のコンセプトは、「バニーガールを世の中に普及させるため、トップクラスのモデルを、トップクラスのバニー衣装が似合う、その良さが分かる人を高等教育の場を持って肉体的・精神的に育て上げ、業界に排出する」という「日本のバニーガール界の未来を長期的な視野で“カイゼン”していく」考え方も持っています!」

(入学案内に載っていた!)

「昔はバニーガールと言えばテレビでは仮装大賞、飲食店では老舗バニーガール倶楽部の独占市場でした!しかし最近はその独占市場が自ら殿様商売にあぐらをかいたツケが回ってきたのでしょう?バニーガールのビジネスモデルは今、風前の灯火にあります!それに抗うために、新横浜国際・小江戸女子の大半は立ち上がりました!ではなぜ私以外のバニーガール業界から彼女達に援護が無かったのか?何故でしょう?バニーガールはよく「敷居が高い」って言い方はされますが、関心があってもその世界に飛び込むのに並々ならぬ勇気が必要なら、多くの人を呼び込むことはできません!趣味で楽しむために行くのに先達者に気を使ったり、気分を損ねないようにビクビクしながら過ごさなければならなかったら、極めて図太い神経をもった好きな人以外離れて行ってしまうのがオチです!!

新しいバニーガールの担い手を呼び込みたかったら、自分達が変わるしかないのに、自分たちの文化は伝統だから変えたくないと視野が狭く、器も小さく、思考停止に陥っています!仮装大賞のエスコートガールの衣装が20年経った今でも紛糾のタネになっているのはそのためなのです!!そして敷居を高いままにして、新しいバニーガールの担い手に来て欲しいと願っている。全く矛盾しています!

バブルの頃までは、バニーガールは高級クラブやカジノといった富裕層の代名詞だったけど、今やバニーガールは高級なイメージをスライドさせ、若い女性の正礼装的存在になりました!!それも冠婚葬祭共通色の黒が一番良いという結論になります!業界の「バニーガールはかくあるべし」に拘泥した後継者の育成法、この学び舎から変えさせて頂きます!!」

-パチパチ

万雷の拍手が会場内を包み込む。

壇上から田沢小町が退場する。

「以上で、理事長の祝辞を終わります。全員着席!」

-ズザザ

「私、この学校入ってよかったぁ〜!」

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