成り立ち

寮は3人相部屋となっていて、コテージ風の個室に2段ベッドと1段ベッドが置かれ、間に勉強机が共用で一つ置いてあるだけだった。

「あ、上着とかかけるクローゼットは立っているところの右側だよ」

「は、はい…」

月に言われて牧はクローゼットを開け、着こんでいたダッフルコートとマフラーを脱いで掛ける。

「あれ?セーラー服?」

「はい。前に通っていた地元の中学の制服で。愛着があるので着てきちゃいました」

「いいねぇオーソドックスな白セーラー…」

「こんなところにポツンと正統派セーラー服てね…」

「あの…先輩方…?」

珍しくなってた正統派白地セーラー服をまじまじと見つめる月と望にたじろぐ牧。

「まぁずっと立ちっぱなしだったんだろうし、あたしの隣に座りなよ」

「この1段ベッドは3年生用だけど、寝るまではソファー代わりにして使っていいみたい」

「は、はい!ありがとうございます!」

月は牧を誘導して1段ベッドに座らせる。

牧の両側に月と望がピトッと密着し、牧は驚いて赤面する。

「あの…先輩…?」

「いやぁ~かわいい後輩ができてうれしくてさ~」

「一度こうして見たかったの~」

(私は愛玩動物か~!)

牧は月に腕と脚を擦られ、望におかっぱ頭をなでなでされる。

堪り兼ねた牧は角が立たぬよう別の話題を切り出す。

「あの…先輩方はそれぞれ編入って一体どういう意味なんですか?」

「そうか…牧ちゃん…は地元からの新入生だから知らないものね。この学校ができた本当の理由を」

「はい?」

「女子兎高等学校、通称バニ高は、元々は首都圏にあった別々の名門女子高を追い出されたグループだったの!」

「ええっ!?」

「神奈川県横浜市に存在する新横浜国際女子高等学校と、埼玉県川越市に存在する小江戸女子高等学校。どちらも全寮制の格式高いお嬢様学園なんだけど、両校の新しい生徒会長が就任すると「我が校の制服を燕尾バニーに変更します!」と鶴の一声で制服を燕尾ジャケット付きバニースーツに強硬に変更してしまった」

「嘘ですよね!?」

「嘘のような本当の話よ」

「当然学校の大半の生徒や先生方、保護者、OB、県の教育委員会はこの生徒会長の強引のやり方に猛反発」

「学園内でも生徒会長支持派と反生徒会長派で全生徒が分かれたわ」

「生徒会長支持派は燕尾バニー姿で登校し、反生徒会長派は以前の制服姿と目に見えていたもんな」

(なにその学園内対立…?)

「ついに学校側は生徒会長派の生徒全員を退学処分、生徒会長派に付いていた教師も解雇するという暴挙に出たの」

「退学!?解雇!?ですか!?」

「ああ…学校側は更に新しい生徒会長を立てて一連の出来事を揉み消し、あたしたちたちを追放した」

「両校の元生徒会長は何とか責任を取ろうとして話し合いを重ね、そこへある人物が助け舟を出してくれたのよ」

「ある人物が…ですか?」

「そう!そのそのある人物こそが…「仮装大賞」でエスコートガールを長年務めている、伝説のバニーガール“田沢たざわ小町こまち”よ!」

「た…田沢小町さんって言ったら地元でもよく知られているモデル兼タレントの!?」

「そっ!そこはバニーガールを目指す人間なら知っているわね」

「彼女は新横浜国際女子と小江戸女子が制服を燕尾バニーにする騒動が始まった時から耳にしていて、彼女はこの騒動から「バニーガールを高校生のうちから教育する施設」を発想した」

「それでしたら普通は人の多い東京に作りますよねぇ?」

「しかし東京だと土地の問題や条例の厳しさや景観上の問題やしがらみもあって不可能だった。そこへ彼女の生まれ故郷であるここ岩手県雫石町の土地の一部を彼女の貯金や全財産を売り払って購入し、建設したんだ」

「必ずしも人が多い大都会でっていう理由はないのですね?」

「それに岩手県をはじめ北東北は美人の産地としても有名だから“美人の産地に設立されたバニーガール育成校”というブランドの説明力にもなるし」

「なるほど!」

「そこへ新横浜国際女子と小江戸女子から騒動を起こした生徒会長と私たちを含むその一派が追放されたとの報せを聞いた彼女は二人の生徒会長に接近し、こう言ったの。「あなたたちの不屈のバニーガール愛の持ち主を埋もれさせるわけにはいきません。我が校で追放されたあなたたち全員を受け入れます」と」

「こうして女子兎高等学校この学校の生徒割合は新横浜国際女子と小江戸女子からの合流組、そして地元岩手やあたしたちについてきた首都圏からの新入生で構成されているんだ。割合としては前者8割、後者2割ってところかな?」

(地元なのにアウェー!?)

ここまで丁寧に月と望が女子兎高等学校の成り立ちについて牧に説明した。

「まあ要するにあたしたちは元生徒会長の思い付きに付き合った挙句に都落ちした元お嬢様学園のJKさ」

「思い付きでねがす!都落ちでねがす!」

「!?」

「新横浜の生徒会長さんだった人も小江戸の生徒会長さんだった人だってワレ自分の信念を貫いて最後まで諦めねがったから小町さんが最後に助けてけだ!ここは、雫石は都落ちした人の流刑地なんかでねぇ!バニーガール界の偉大な先人が用意してけだ開拓地フロンティアなはん!そうでがんすえん?」

「…うん…」

(言っていることの半分はよくわからないけど…)

月の自虐に牧は感情的になるあまり地元の訛が出て月と望を唖然とさせてしまった。

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