第79話 届いたメールは…あの双子からだった。
〇高津瞬平
届いたメールは…あの双子からだった。
母さんと三つ子として育った、
三枝瞬平と薫平…
…きっと、僕達の名前の由来の人達。
「…あの島自体が一条のアジトとか…マジサプライズだね。」
何なんだろ。
静かに腹の底の方から…煮えたぎるような怒りが湧いて来た。
雑兵含めて…ほんっっと…二階堂をかき回してくれたよね。
一条って出来ない奴の集まりだと思ってたけど、今のトップは意外とずるがしこそうだ。
「潜入した途端に通信切れたよ。どうする。」
薫平がキーボードを叩きながら首を傾げた。
「て事は、カルロが復活してるっぽい…か。」
「告白だけ聞くと味方に思えたけど、島を動かしてる様子を見ると…やっぱ怪くない?」
「言えてる…舞さんのチップ自体に入っちゃえばいいとか?」
「おっ、瞬平さすがー。」
「いや、待てって。回路は取れるけど、カルロは甲斐さんだから…傍受されちゃうよね。」
「……」
「……」
二人でメールを読み返す。
島自体が一条のアジト…
操縦室の解除レバーで、船体が四つに分離される。
深海まで降りると爆破装置が作動…
船体自体は遠隔操作可能…
「…まずは船体の操縦回路に入るか。」
「メールによると、瞬平のプログラミングはカルロにバレバレだから難解って。」
「ムカつく!!」
「あ、いい事思いついた。」
僕が腹を立ててる横で。
薫平が笑顔で手を叩いた。
「一緒にやるよ、瞬平。」
「は?」
そして、薫平がそう言った一分後には。
『…了解です…』
顔色の悪いオッサンが、モニターの向こうでボスに支えられて座ってた。
…CK47か。
『ゴホッ……奴らの…操縦回路に入るには……』
そこからCK47の言う通りに、薫平と二人で数式を打ち込んだ。
もちろん、モニターの向こうでは、フラフラの状態のCK47もキーボードを叩いてる。
「ひー…これ、相当…」
「……」
…すごい。
薫平は口に出しそうだけど、僕は言いたくない。
こんなの…初めて見た。
『…Gを使ってる方の君…』
僕だ。
「何。」
『…三号機に…ウイルス投下して…』
「え?そんなのしたら…」
『三号…機が…ゴホッ…メインの戦闘機…回路…侵入したら…反対に危険だ…から…ウイルス仕込んで…』
「どちらからも制御不能にする方がいい、と。なるほどね。」
僕が返事をしてないのに、薫平が納得したように感心する。
…いちいちムカつくっつーの…
『Kを使ってる君…もう…操縦回路に入れるから…あと…妨害も…ケホッ……』
そこまで言うと、CK47は限界を迎えたのか。
『俺が代わる。サポート頼む』
代わりにボスがキーボードを叩き始めた。
「……」
正直、現場に出てるイメージしかないから…
大丈夫?とも思ったけど…
『今CK47が打ち込んでたぐらいなら、俺も頭に入ってる』
「…意外と頼もしい。」
『意外と?』
「あ、失言でした。」
薫平の苦笑いに、鼻で笑う。
小さな部屋中に流れる数式。
ここ数日で指がおかしくなるぐらい、キーボードを叩いた。
だけどまだまだ…
「ウイルス投下。」
「こっちも回路侵入成功。」
『妨害電波解除』
「母さん、聞こえる?」
『…ら、紅。瞬平?』
「!!良かった…今、どんな状況?」
『操縦室に入ったわ。船内が見える?』
「うん…通信戻ったね。今ここから見えてる状況だと、父さんと舞さんとカルロがA地点にいるね。よし、分離開始。」
父さん達がいる地点が三号機。
だとすると、何とかあの三人を救出しなくちゃだ…
「あー…三号機の中、見えなくなった。」
「ウイルスのせいだね。」
「大丈夫かな。さっきチラッと見えた感じだと、三人とも動いてなかったけど…」
「急いで回収してもらおう。沙耶さん、聞こえますか?三号機だけ島から離れます。その後の動きは不明ですが、中の人達が酔っちゃう前にワイヤーで吊って下さい。」
『制御不能の船体を吊り上げろって?ったく…』
薫平の指示にボヤキながらも準備に入る沙耶さん。
僕はキーボードを叩きながら、日本の本部に通信を…
「…あれ。繋がんない。」
「……瞬平…これ見て。」
「…え…」
薫平に言われて上に会ったモニターを引っ張り下ろす。
そこには…
〇さくら
「分離開始。」
紅ちゃんの合図で、レバーを引いた。
少しの衝撃と共に、船体が四つに分かれる様子がモニターに映し出される。
「よし。出るよ。」
「はい!!」
あたしと紅ちゃんは、武器袋から小さなゴムまりを出して胸に当てたまま割る。
それは一瞬にして忍服を覆って、ウェットスーツに早変わりした。
あたし達が脱出した操縦室を含めた三基は、高津の双子ちゃんが遠隔操作で安全な場所に運んでくれる。
見上げると、沙耶君が下ろしてるワイヤーが、制御不能になってる三号機を捉えてる所だった。
けど…吊り上げられたかと思った瞬間、何かがすごい勢いで飛び出して来た。
『水中バイクかー…』
薫平君の、呆れたような声が聞こえた。
…なるほど…バイク…
あの性能…
きっと陸でも空でも行けちゃうやつだ。
千秋さんが開発したのかな。
すごいなあ……って、こんな事考えてる場合じゃないよね。
「紅ちゃん、CA5借りるね。」
『分かりました。行って下さい』
「後は任せたよ。」
『ラジャ』
「万里君、舞ちゃん、無事?」
『無事です。ただ…油断しました。すいません』
「ううん。えーと…」
あたしはバイクが走った方向に目をやって考える。
FPS2318…
「…みんな、何か変わった事ない?」
紅ちゃんのCA5に乗り込みながら、モヤモヤする気持ちを落ち着かせようとすると。
『日本の本部に繋がらない』
瞬平君が低い声で言った。
「……」
一条の狙いは、二階堂。
方角的に…ビンゴ。
どうしたら…守れる?
いくら地道に鍛えてたって、現役じゃない。
すっかり歳を取ったあたし。
甲斐さんが偽者だ…って気付かなかった事、本当はショックだった。
それだけ、カルロが優秀だったって事だよね。
こんなあたしに…守れる…?
『さくらさん、聞こえますか』
「舞ちゃん?脱出した?」
『万里君と紅は沙耶君に引き上げてもらいました。あたしはさくらさんを追います』
「…何かあった?」
舞ちゃんのトーンがおかしい。
そう思って問いかけると。
『…万里君が刺されました』
「えっ!?」
『命に別状はありませんが…』
「そんな…どうして…」
『…紅は何も言わなかったけど…やっぱりカルロは一条と繋がってると思います』
「……」
『て言うか、どっぷり一条だと思います』
だとしたら。
たぶん、HJ8895の南に見付かった水素爆弾は、あたし達を引き付けるため。
埠頭の警報機に分かりやすいダミーを取り付けたのも。
わざわざ自分を犠牲にするように見せかけて、まで。
だけど、ケガは本当だった。
あれは…何かしくじったの?
それとも、誰かが…?
カルロは長い間二階堂に潜んで、二階堂の内部事情を知り尽くしてる。
今の所、二階堂に負傷者はいない。
カルロの目的が『二階堂をつぶす事』だとして。
どうしたら阻止できる…?
志麻さんが一条から持ち帰ったデータを思い返す。
あれは終わった…あれも解決…
…ん?あれは、何だろう…?
ちょっと意味不明の図式。
あたしの知り得るすべての物に検索をかける。
動いて。
もっと早く。
「…はっ…」
一つ繋がると、後は面白いぐらい…ピースがハマった。
でも、まさか…
…ううん…きっとそうだ…
「……」
迷ってる場合じゃない。
すぐに…すぐに止めなきゃ。
でも、止めるなんて…出来る?
止められないとしたら…
「…やるしかない…」
あたしはイチかバチかの作戦を決行するため。
まずは…
「先代?大事な話があります。」
『さくらか。どうした?』
「実は…」
先代に連絡をとった。
もう…あたしには。
この作戦しか。
思い浮かばない。
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