第78話 「えーと…」
〇東 舞
「えーと…」
さくらさんを助けるために、陥没した砂地に飛び込んだのはいいけれど。
砂の中を滑り落ちて、着地した場所は…
すごく綺麗な…まるで美術館のような空間。
「…ここどこ。」
探索装置を取り出そうとして、着替えた事に気付く。
こんな事なら忍服でくれば良かった…って、あれはあれでボロボロだったしね…
CA5は上に置いて来たし…とりあえず、わずかな武器と自分の能力で探るしかない。
さくらさんには、誰一人殺さない死なせないって言われたけど…
もう、そんな事言ってられない状況。
あたしは銃を取り出して、警戒しながら先を進んだ。
すると…
「さくらさん!!」
聞き覚えのある声が聞こえて来た。
この声…紅だ。
すぐさま、その方角に駆け出す。
「お願いします。私に力を貸してください。」
二人の姿が見えた時、あたしの耳に飛び込んで来たのは、紅の言葉だった。
「それ、あたしも参加させてもらうわ。」
声を掛けると、二人はあたしを見て…
「舞ちゃん!!来てくれたんだ!!ありがとう!!」
さくらさんが、あたしに抱き着いて来た。
「わっ…あ…と、当然です。」
戸惑いながらそう答えると、そんなあたしを見た紅が小さく笑った。
「それでー…何をすればいいの?」
二人に向き直ってそう言うと。
「…実は…」
紅が、声を潜めて話し始めた。
〇さくら
「お願いします。私に力を貸してください。」
そう言った紅ちゃんの目が、今までと違う。
これ…何か決意した目だ。
助けに来てくれた舞ちゃんとも合流して、紅ちゃんは…ある事を打ち明けてくれた。
それはー…
「一条は、私を取り戻す気なんてありません。あれは情報操作です。」
「…まんまとやられたわね…」
舞ちゃんが低い声でそう言いながら、両手を握りしめた。
「だとすると、一条の狙いは何?」
「…二階堂をつぶす事だと思います。」
二階堂をつぶす……?
ゴクン、と唾を飲んだ。
今までなら、絶対あり得ないと思えたのに。
なぜか今は…そう思えない。
「…殺人が当たり前のような組織です。兵士に向いてない子供はトップの子だろうがすぐに処分され…感情が育って間違いに気付く頃にも、それは行われていく…」
「……」
「私は生き残ったけど…結局は…」
そう言いながら、自分の手を見つめる紅ちゃん。
なんて…残酷なんだろう。
…夢と希望あふれる子供達に…なんて事を…
「過去よ。」
そんな紅ちゃんの手を、そう言いながらギュッと握った舞ちゃんは。
「確かに消せないかもしれないけど、それを覆うほど人を救えばいい。あたし達が今からするのは、そういう事でしょ?」
強い目で…紅ちゃんを見つめた。
「…はい。」
少し涙目で頷く紅ちゃん。
あたしは無言で二人に手を重ねると。
「どう動く…?」
神経を研ぎ澄ました。
〇高津万里
「……」
紅と二手に分かれてA地点から侵入した俺は、ある異変に気付いていた。
島自体、少しずつ進んでるが…あきらかに沈んでる。
このままだと、脱出が困難になる。
例え俺がここで終わろうとも…早くみんなを探して脱出させなくては。
「紅、聞こえるか?」
…通信出来なくなってる。
もしかして、妨害電波を発してたカルロの状態が良くなったのか?
「っ!!」
気配を感じて振り向くと、背後に甲斐さ…カルロがいた。
「…万里…」
「……」
「……許してくれ。」
「…何の謝罪ですか。」
偽者だと知っても、目の前で見るその人は…甲斐さんにしか思えなかった。
長年一緒に過ごした人。
今更偽者と言われても…
「許して欲しい…」
「それは、私の父でありながら…ですか?」
「……」
「いや…私には…父はいない。今のは失言です。すみません。」
「万里…」
「甲斐さん、ずっと二階堂に尽力されていたではないですか。」
「……すまない。私は…止める事ができなかった…」
完璧なまでに、甲斐正義。
いや…
もう長く偽者と過ごし過ぎて、本物の甲斐さんを思い出せない。
声は同じだったか?
小さなクセは?
「私は…弱い人間なのだ…」
カルロがそう言って、俺に一歩近付いた所で…
「あたしの父親と同じ顔で、そんな情けない事言うのやめてくれない。」
ふいに聞き慣れた声がした。
振り向くと、舞が斜に構えて立ってる。
「……」
「ムカつく。あの刺激的な訓練、偽者がしてたなんて。ほんっとムカつく。」
舞はそう言いながら俺の傍まで来ると。
「ついでに教えてよ。」
「…何だ。」
カルロを睨みつけて言った。
「長年二階堂にいて、情は移らなかった?」
〇高津 紅
「こっちです。」
さくらさんと共に、操縦室に向かう。
万里君が侵入したA地点には、舞さんが向かった。
たぶんそこに………いる。
舞さんが引きつけてくれてる間に、必ず止めなくては…
このままでは、この島は深海に沈んで…大爆発を起こしてしまう。
『本物のカルロは、もう死んでいる』
最後の通信で、
「…えっ?」
『甲斐正義になり切っているのは、
「っ…
統は…年の離れた腹違いの兄。
一条では…二十歳過ぎても生きていられる事が奇跡だ。
そんな長兄の存在は、一条の中でも憧れに近かった。
だけど私は…
実物に会った事はない。
『ああ。奴は二階堂をつぶそうとしている。その島自体が一条のアジトだ。気を引き締めてかかれ』
「…高津は、命を懸ける気よ。」
『絶対に彼を死なせてはならない』
「どうして
『…高津万里は…俺達に必要な人だ』
「……」
『…とにかく…船体に入ったら操縦室に向かえ。その船体は4つに分離する。その後の指示は…おまえの息子達が出す』
「え?」
『二人とも優秀だな。見つかるつもりはなかったが、俺達はとっくに彼らの網に引っ掛かっていたようだ』
その
「こちら紅、誰か聞こえますか?」
『……』
ここに入って、また通信が出来なくなった。
きっとカルロの状態が少し良くなったせいだろう。
だけど…走りながら、EEに何か細工をしているさくらさん。
きっと、この人なら…どうにかしてくれるはず。
「あそこです。」
目的の操縦室に辿り着いた。
私は一旦足を止め、背中の武器袋から組み立て式の銃を取り出すと。
「さくらさん、下がって。」
片膝をついて、銃を構えた。
…私は、一条で育った。
この能力が人を傷付けるための物として備えられたとしても…
バシュッ
バシュッ
「さすが…ホレボレしちゃう♡」
さくらさんにウインクされた。
中途半端に記憶が戻らなかった今までなら…
そんな誉め言葉にも勝手に傷付いたかもしれない。
だけど今は。
一条で仕込まれた殺傷能力を。
私は…人を救うために使う。
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