第71話 「…許せない…」
〇さくら
「…許せない…」
あたしはCA5を飛ばして日本に向かってた。
誰からの通信にも応えなかったけど、みんなの一連のやり取りは聞いてて。
日本では埠頭で不穏な動きがあった以外、何も起きてない事にモヤモヤしてた。
どうして?
手薄な日本で何もしないって…
「……」
桐生院家も気になったけど、それについては海さんが動いてくれたのを知ってる。
だからあたしは…埠頭に向かう事にした。
危険だと分かってる。
だけど、二階堂には再生して欲しい。
だから…誰にも傷付いて欲しくない。
かと言って、あたしも身代わりになんてなれない。
こんな日が来るかもしれない。
そう思って、鍛錬だけは怠らなかった。
…絶対、無事に帰ってみせる。
「…さくらさんですか?」
埠頭に着いて、CA5を降りた所で声を掛けられた。
「あっ、見つかっちゃった…」
つい本音がこぼれると、その男性は懐かしい気持ちにさせてくれる笑顔になった。
「…もしかして、ヒロ…山崎さんの息子さん?」
「はい。次男の
「わー!!はじめまして!!お父さんの幼馴染のさくらです!!」
誉人さんの手を両手で握って、ぶんぶん振り回してしまう。
だって!!
笑うと昔のヒロにそっくり!!
懐かしいよー!!
「きょ恐縮です…ところで、ちょっと見ていただきたい物が。」
何ならハグもしちゃいたい衝動に駆られてたあたしは、その言葉にスイッチが切り替わった。
「何?」
「倉庫のアラーム音がいつもと違うとの情報があり、ボスの指示でここに来たのですが…」
誉人君に続いて倉庫に入ると。
「…何だろ。この分かりやすいダミー。」
警報機の上に、おもちゃのような変換機。
「埠頭のみならず、PO9852まで範囲を広げてキャサリンやアーサーをかけてみましたが、爆発物らしき物は見当たらず。しいて言えば…」
「しいて言えば?」
「甲斐さん…の、偽者が消えました。」
「え……」
わけもなく…海を見た。
そんなあたしに釣られたように、誉人君も視線をそこに移す。
「…本当でしょうか…甲斐さんが偽者だったなんて…」
「……」
…誰も気付かなかった。
甲斐さんが偽者だって。
それだけ完璧だった…って事。
本物の甲斐さんは現在86歳。
一つ年下だった葛西さんは、70歳で現役を退いてクリーンに。
80歳の時に…先代と姐さんに看取られて亡くなられた。
甲斐さんと葛西さんは、あたしにとって先生だった。
何かと自由で暴走しがちだったあたしに、二人はいつも手を焼いてた。
いつから…?
いつから、甲斐さんは偽者だったの?
『さくらちゃん、聞こえる?』
ふいに飛び込んで来たのは、万里君の声。
聞こえ方からして…あたしにだけらしい。
「…うん。聞こえる。万里君は今洞窟?」
『うん。紅と…三枝兄弟と一緒に』
「えっ、彼らもそこに?」
『ええ』
あたしが声を潜めると、誉人君が気を利かせてその場を離れてくれた。
「何か…分かった?」
『…あれからずっと調べてたんだ』
「あれから?」
『さくらちゃんが、俺の所に来てからずっと』
「…何を?」
『自分の事』
「……」
万里君は…幼い頃、二階堂に来た。
あたしもだけど、二階堂にはどこで生まれたか、誰が親なのか分からない者が多い。
だけど…
きっと、みんな万里君のルーツには興味があったはず。
だって万里君…
見た目は日本人みたいだけど…きっとハーフか…イタリア人。
『偽者の甲斐さんは…一条の人間じゃないよ』
「えっ?」
『だから、追わないで欲しい』
「……」
倉庫の警報機を振り返る。
あのダミー…
もし、偽者甲斐さんが取り付けたのだとしたら。
二階堂を少しでも、ここに引きつけるためだ。
何のために?
自分が逃げるため?
「…万里君。偽者甲斐さんは…二階堂の人なの?それとも…」
警報機を見ながら、不吉な予感がよぎる。
『…彼は…三枝の人間で…』
「……」
『俺の、父親だよ』
「えっ?」
『本物の甲斐さんが…一条と繋がってたんだ。それを…止めるために…』
「!!」
だとしたら…
「偽者甲斐さん、一人で一条に向かう気だ…」
『え…っ?』
「万里君、急いで全員に報告して!!」
『ラジャ!!』
あたしは誉人君を呼んで、一緒に本部に向かった。
そこには、誉人君よりさらにヒロにそっくりな界人君がいて。
「色々話したいとこだけど、今は超特急で全国にキャサリンかけて。」
あたしがそう言うと。
「ぜ…全国ですか?」
少し困惑されてしまった。
…なるほど。
日本の検索マシーン、あっちのより遅れてるな。
「ちょっとごめんね。」
あたしはモニターにキャサリンを被せると。
「瞬平君、あたし。今、日本の本部にいる。」
瞬平君に連絡を取った。
『え?本部?何してんの』
「こっちの検索マシーン、改良したい。今、モニターにキャサリン被せてるから、全国に操作通信飛ばせるようにして。」
『うわ…何だ…この人使いの荒さ…』
そんな事を言いながらも。
瞬平君はさっさと手を動かしてくれたようで。
大きなモニターに映し出された日本地図に、サーッと危険探知機が動き始めた。
「…さすが。」
「俺達も追い付かなきゃな。」
『こちら薫平。HJ8895の南に小さな赤い点滅が見えてます』
薫平君の言った場所に注目すると、確かに…
「これは…」
あたし達三人は顔を見合わせて。
「水素爆弾…」
小さくつぶやいた。
…もしかして…
偽者甲斐さんがここで食い止めてるんじゃ…
「こちら界人。HJ8895の南にある赤い点滅は水素爆弾の可能性。大至急、海上特別警備隊に出動要請を。」
「あたしもすぐに行く!!」
あたしがそう言うと。
『さくら!!一人で突っ走るな!!』
ヒロの声が聞こえたけど。
あたしはもう、駆け出してた。
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