第66話 「さくらさん、何があった?映像ください。」

 〇高津薫平


「さくらさん、何があった?映像ください。」


『……』


 あの自信満々なさくらさんが絶句してる。

 これは…ただ事じゃない。


 俺は瞬平と顔を見合わせて小さく頷き合うと。


「勝手に撮らせてもらうよ。」


 瞬平の言葉と共に、さくらさんが装着してるEEを起動した。


「……これ……」


 モニターに映ったのは…


「うっ…」


 瞬平が口を押えて顔をしかめた。

 そんな瞬平を心配したおはじきが、俺の膝から瞬平の背後に回る。


「…何体ありますか。」


『……新しいのは…六体…』


「奥で椅子に座ってるように見えるのは…ミイラですか?」


『……』


「さくらさん。」


『……』


「しっかりして下さい。」


『…うん…』


 映像が動き始めた。

 さくらさんがホルマリン標本の前を歩いて移動する。

 そして、椅子に座ったミイラのような物体の前にしゃがみ込むと…


『…これが…本物だとしたら…』


「え?」


『これ、甲斐さんだよ…』


「え…っ!?」


 俺と瞬平は顔を見合わせて絶句した。


 甲斐さん…?

 いや、甲斐さんって…


『…いつから…?』


 さくらさんのつぶやきにハッとする。


「今、甲斐さんは…」


「日本だ…」


「確認しよう。」


『すぐに海さんにだけ連絡取って』


「ラジャ。」


 いつから…?

 いつから…甲斐さんは偽物に…?


 俺達にとっては、おじいちゃんみたいな存在で…


「ボス、聞こえますか。」


『ああ。どうした?』


「…日本にいる甲斐さんは偽物です。」


『…何?』


「今、さくらさんがRR445から地底湖に向かう途中に…数体のホルマリン着けとミイラを発見しました。」


『……その中の一体が…甲斐さんなのか…?』


「ミイラが…甲斐さんです。」


『…分かった。こちらでも手を回す。偽物を拘束するよう、本部に連絡してくれ』


「ラジャ。」


 …モニターには、格納庫に到着した泉たち…

 港の様子に、第一陣がパトナー近くに下り立つ様子。

 そして、さくらさんは動けないのか…

 ミイラだけがずっと映し出されている。


「…さくらさん。大丈夫?」


 年齢的に、甲斐さんはさくらさんの教育係だったはず。

 親みたいなもんだもんな…

 ショックだよ…


『………い…』


「え?」


『……許さない』


「……」


『双子ちゃん、こっちで今からキャサリン開くから、同期して』


「え、あ、は…はい。」


 瞬平が慌てたようにキーボードを叩いた。


 …なんだろ…

 さっきとは全然…空気が違う…


 これ…

 さくらさん、完全にスイッチ入っちゃったんじゃ…




 〇二階堂 海


『こちらMM910』


「…二階堂です。」


『え……?』


 薫平から信じがたい状況を聞いた俺が連絡を取ったのは。


「2292NDです。」


『はっ…はい!!』


「そっちの状況は?」


『特に大きな動きはありません』


 MM910…咲華の元同僚。


「君の今の任務は?」


 管理番号で応答したと言う事は、任務中。

 商社の仕事中ではなさそうだ。


『埠頭のアラームが気になって見回ってました』


「どういう事だ?」


『それが…今までのアラーム音と違うんです』


「……今すぐそこを離れろ。そこにはこちらから本部に指示を出す。君には…俺の妻の所に行って欲しい。」


『え?』


 MM910は少し驚いたように声を出したが。


『ラジャ。桐生院家ですね。すぐに向かいます』


 何かを察したように、そう言って通信を切った。



界人かいとさん、聞こえますか。」


 そしてすぐさま、本部にいるであろう浩也さんの長男、界人さんに埠頭の事情を話す。

 そして…甲斐さんが偽物である可能性が高い事も。


 …可能性が高い…なんて。

 さくらさんが発見したんだ。

 間違いないはず。


 それなのに…信じたくないと思う自分がいる。


『…信じがたい事ですが、一条のする事であれば…』


 界人さんは言葉に詰まった後。


『今、誉人よひとが埠頭に到着しました。指示通り、シールド作戦遂行します』


 いつも通り、任務の声に戻った。


 誉人さんは界人さんの弟。

 俺が渡米してからというもの、山崎兄弟にはずっと日本で親父の補佐をしてもらっている。



「……」


 甲斐さんの事、咲華とリズの事。

 色んな想いが複雑に胸をかき乱す。


 …しっかりしろ。

 今は自分の任務に集中だ。



「泉、様子はどうだ。」


 格納庫の上空を通り抜け、少し離れた場所に着陸した泉に問いかける。


『んー…正直言って、ここはダミーだと思う』


『俺もお嬢に一票』


 泉と同じ場所に降りたらしいアオイが、泉に同意した。


「SAIZOはどうだ。」


『……分かってるんだろ』


 どういうわけか、泉ではなく俺について来たSAIZOは。

 ぶっきらぼうにそう言ったかと思うと。


『南に2km…46185辺りに変な窪みがあった』


 すぐに有益な情報をくれた。


「さすがだな。格納庫にはRYJを置いてそっちに向かおう。」


『ラジャ』


 格納庫の上でCA5から危険察知機を屋根に降ろして、SAIZOが示した場所に飛ぶ。

 泉とアオイは陸を走って現地にやって来た。


「…兄貴、さっき長く別通信してたみたいだけど、何かあった?」


 泉が俺の隣に立って言った。


 目の前の窪みには、アオイが仁王立ちをして眺めた後。


「下に体温反応はなさそうだな。」


 SAIZOに言った。


「…降りて見て来る。」


「えっ?」


「おい!!」


「トシ!!」


 俺達が声を掛けた時には。

 SAIZOは窪みの中央に飛び込んで。

 まるで…蟻地獄に吸い込まれるかのように、姿を消した。


「何してんのよ…っ!!」


 続いて、泉が飛び降りて。


 俺は…


「アオイ、そこで待機してくれ。3分経っても通信が無かったら、瞬平と薫平に連絡を。」


「えっ、あっ…う…わ、分かった。」



 今までいろんな現場に出た。

 一般人を死なせてしまった事もある。


 だけど、もう誰も死なせたくない。


 敵も、味方も…


 大事な、家族も。



 仲間も。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る