第65話 「……」

 〇さくら


「……」


 申し訳ないけど、一人だけ別ルートでさっさと飛んだあたしは。

 すでにカトマンズに到着してた。


 で。

 今、聞こえて来てるのは…

 高津の双子ちゃんが、みんなに指示してる声。


 ふむふむ…

 戦闘機の格納庫か…


 そんなにすぐ見付けられちゃう格納庫。

 たぶんフェイクだろうなあ。

 ま、海さん達なら、それを見付けてすぐに気付くと思う。

 きっと、その近くに本物がある事。



 それにしても…

 格納庫には環さんと織ちゃんの方が近かったのに。

 どうして自ら危険な現場を選んだんだろう?


 …余計な事なのかもしれないけど…

 みんなを助けたい。

 誰かだけじゃなく、みんなを。


 そしてもちろん、あたしも生きて帰る。




 陸上走行も出来る新型CA5…ほんっと優秀。

 あたしは少し開けた場所に着陸した後、鬱蒼とした木々の合間に入り込んだ所でCA5を降りた。


「……」


 静かに歩きながら、五感を研ぎ澄ませる。



 春に…華月の彼氏である詩生しおちゃんが、この近くの地下牢に拉致されてた。

 そこには、まさかの…しんちゃんもいた。

 …で。

 海さんをはじめ、志麻さんも薫平君も。

 みんな、SAIZO君に助けられて…

 地底湖にあった船の中で見つかった…と。


 …地底湖。

 今まで見つからなかった物が、そこにあった。

 あの後、二階堂は他の組織と一緒になって地底湖を調べた。

 だけど、特に何も発見はなかった…との事。


 …本当かなあ…?


 環さんを疑っちゃ悪いんだけど…

 なーんか、臭うんだよ。

 だって、あんなに優秀なキャサリンやアーサーを用いても見付からなかった地底湖だよ?

 そんな長年隠れてた場所。

 他に何もないわけがない。



『おばあちゃん、聞こえる?』


「あっ、おばあちゃんって言ったー!!」


 聞こえて来た声に反応すると、周りの木々から鳥たちがバサバサと飛び立った。


「あっ…大声出しちゃった…ごめんごめん…」


『誰に謝ってんの』


 この通信感度。

 あたしにだけ繋げてくれてるんだ。

 瞬平君、きっと色々察してくれたに違いない。

 するどい。


「ちょっと周りの可愛い子達…何?瞬平君。」


 落ちて来た葉を拾って、朝陽に照らしてみる。


 うーん…?

 これ、何だろう?


『頭たちと一緒だったんじゃ?』


「うん。ちょっと別ルートで先に来ちゃった。」


『え?どこに』


「国立公園。」


『はっ!?』


 わー。

 それまで黙って聞いてた薫平君も、同時に叫んだよ。


「ふふっ。双子だから声同じだね。」


『いや、それはそうだけど…さくらさん、どんなルートでそこに?』


『おばあちゃん、どこでもドアでも持ってんの?』


「んー、まあそれはいいとして…第二陣の環さんが格納庫に行かなかった事にモヤモヤしてるんでしょ。」


『……』


 黙る空気感も一緒だー。

 ああ、華音と咲華が恋しいなあ。


「あたしもそこは気になっちゃった。でも今は信じるしかないよ。」


 なーんて…

 環さんを疑ってるあたしが言うのもアレだけど。


 でも。

 きっと。

 環さんは、みんなを騙そうとしてるわけじゃない。


 たぶん…


 みんなを守るために、何かを隠してるんだ。



「…ねえ、双子ちゃん。」


 あたしは地面に這いつくばって、くんくんと匂いを嗅いだ。


『な…お………』


『……で…が……』


 …あれ?

 急に通信利かなくなった。


 立ち上がって、大きな木の下に立つと。


『おばあちゃん、大丈夫!?』


『さくらさん、聞こえる!?』


 二人の慌てた声がクリアに飛んで来た。


「うん。何だろ…この先に通信妨害されてる所がある。」


『危険です。応援呼びましょう』


「ううん。えっと…」


『何』


『何ですか』


「地底湖って、地下牢に近かったんだよね?」


『そうだよ。RR445から北に180m』


「て事は…この辺も下に何かあるかな。」


『え。さくらさん、ちょっと待って。今さくらさんの位置確認してるんだけど、引っ掛からないよ』


「だろうね…」


 どんな優秀な探知機にも引っ掛からない。

 そんな装置を一条は持ってる。


 …だーけーどー。


 なめてもらっちゃ困るんだよ。

 二階堂には、五感の優れた人間も大勢いる。

 それに優秀な装置が適正に使われれば…怖いものなし!!


「今リムレで地表調べてるんだけど、次亜塩素酸ナトリウムの数値すごい。」


『塩素系殺菌剤か…』


『それだけで、キャサリンやアーサーが反応しないはずはないんだけど』


「うん。たぶん、この下には強力な探知機妨害機があるんだろうね。おまけに、まぜるな危険ってやつも。」


 まだ黒装束のままで良かった。

 あたしは急いで頭巾を被り直すと、鉄壁のマスク機能をオンにした。


 辺りを見回すと、この半径3mぐらいの間には全く木が生えてない。

 以前はあったのに、枯れたか溶けたか…

 葉脈まで透けるほど落ち葉が漂白されちゃってるって…地下から地表に沁み出る?

 それとも、定期的にここで何かそういう作業をしちゃってる感じ?



『…データ来た。さくらさん、そこ危ないから少し離れて』


「とりあえずRR445に入ってみる。」


『おばあちゃん、応援待った方が良くない?』


「平気。めっちゃ優れた武器いっぱい持って来たから。」


『…もー、ムカつく…』


『…危険だと思ったら、全部使いまくって下さい』


「ラジャ。」



 汚染されてなさそうな地表を選んで、小型ドリルを取り出す。


「掘ってちょ。」


 薫平君の真似をして言うと、ヘッドセットから小さな苦笑いが聞こえた。



 待つ事数分。

 あたしが入れそうなほどの穴が空いて。

 そこから侵入を試みる。


 恐らく、ここは放置されてる場所。

 一条が集まってるのは、パトナーとカトマンズの間にある研究所。

 か。

 まだ分かってない…どこか。



 小さな穴から洞窟に下り立つと、生温い風が吹き抜けて来た。


 RR445はSAIZO君が爆破した事によって、地上にも大きな穴が空いてたはずだけど。

 それも今は見当たらない。

 まあ、危ないもんね。

 上は国立公園だし。



 暗がりもへっちゃらなサングラスを装着して、危険物や怪しい物がないか…五感頼りで歩いてみた。

 地底湖への通路は…特に異常なし。

 船は回収されたって聞いたから、今はただ湖があるだけ…


「…ん?」


『何、おばあちゃん』


 どうもあたしの行動が気になって仕方ないのか。

 他の面々との通信をしながらも…双子ちゃん達はあたしの何気ない声も拾っては、反応してくる。


「んー…」


『気になる。早く続き教えて』


 明らかに…明らかに、ここだけ。

 手触りが新しい。

 それに…


 コンコンコン

 ポワンポワンポワン


『うわ、何今の』


『空洞じゃん』


「だね。ちょっと開けてみる。」


『気を付けてよ』


「うん。」


 ギュインッ


 ドリルを軽く振り回すと、簡単に円形の入り口が出来た。

 思ったよりも薄い偽壁だったなあ。


 …て言うか…


 見付けて欲しかったのかも。



 中を覗き込むと…


「……え……」


『何。何があったの』


『さくらさん、無事ですか?』


「……」


 あたしは、その場を見て。







 …言葉を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る