第61話 「わー…助かった…」

 〇さくら


「わー…助かった…」


 あたしは、目を見開いて。

 立ち上った白煙を見上げた。


 泉ちゃんとアオイ君の非常事態。

 丘の上の家には、住民と敵。


 そんな家の中に、海さんと乗り込もうとした瞬間…


 ########


 胸元に仕込んでたリムレが、反応した。


「はっ…」


『待って!!入っちゃダメだ!!人影はダミーだ!!』


 瞬平君の声と同時に。

 海さんが、あたしを抱えて飛び跳ねた。



 ボン……ッ…!!



 ゴロゴロと転がって、少し離れた位置でその爆発音を聞いた。

 海さんはあたしを庇うようにギュッと抱きしめてくれてて。

 なんて…頼もしい人なんだろうって思った。


 って…


「海さん!!大丈夫!?」


 起き上がって、海さんの背中を見る。


「大丈夫です。危なかった…」


 うん…確かにケガはなさそう。

 良かった…。


「どうして分かったの?」


 あたしが胸元を押さえて問いかけると。


「反応したの、リムレですよね。音が聞こえました。その後、中から起爆装置の作動する音も。」


「ええええ!!海さんすごい!!あたし聞こえなかったよ!?」


「え?そうですか…?」


「うん!!リムレが反応したから、やばっ!!って思っただけ。」


「リムレに助けられましたね。」


「ほんと。」


 とは言え…

 海さんが守ってくれなかったら、あたし…ケガしちゃってたよ。

 細心の注意を払ってたはずだけど、焦ってるんだろうな…あたし。

 気を引き締めなくちゃ。



「衝撃のせいか、通信切れましたね。」


 海さんが耳たぶに触れる。

 あたしはリムレで妨害電波が出てないかをチェック。


「…これ、何か信号が出てる…どこから…?」


 何だろう…

 これって…


「…誰かからのSOSですね…」


 海さんも気付いたのか、辺りを見回す。


 二人で神経を研ぎ澄ましていたものの…


『全二階堂に告ぐ。こちら高津瞬平。残念だけど、今回の戦い、うちだけじゃ勝てないよ』


 突然通信が戻って、瞬平君の声が聞こえ始めた。


『街の中にいた敵を捕獲してくれたほとんどが、助っ人。分けてた通信、もう全部一緒にするから。管理番号なんて…今は関係ない。僕達は、守らなきゃいけないんだ』


 その言葉に、海さんと顔を見合わせた。

 あたしが使ってる、裏二階堂チップが…全二階堂の物と同期された。

 その事に不思議な心地になってると。


「同感。管理番号は必要ない。」


 隣で、海さんが言った。


『ボス…!!良かった…』


「瞬平の作ったリムレに救われた。」


『え?』


「さくらさんが身に着けてたリムレが反応したんだ。」


 そう言って、あたしに親指を突き出す海さん。

 あたしもそれに応えようとして……んっ?


 足元、何だかここだけ…


「見ーつけたっ。」


 バッと防護シートを除けると、そこには泉ちゃんとアオイ君がいた。


「泉!!」


『えっ…泉、無事だったんだ…良かった…』


 途端に、チップには安堵の声が飛び込んで来て。


「…あいてー…誰かにスタンガンくらわされた…」


 そう言ってるアオイ君を見て、助けてくれたのは薫平君だな…って思った。


 一条に潜入してる彼が、二人に接触するのは難しい。

 二人をスタンガンで捕獲したと見せかけて、ちゃんと守ってくれたんだ。



「泉ちゃん!!」


「…紅さん?」


 そこにやって来たのは、黒装束の紅ちゃん。

 その見慣れない姿に目を丸くした海さんと泉ちゃんに、少し恥ずかしそうにしながらも。


「無事で良かったです…」


 紅ちゃんは、静かに頷いた。


 …で。

 その後ろから…遠慮がちなSAIZO君。


 そっか…

 きっと、泉ちゃんは…SAIZO君の事も覚えてない。

 志麻さんと三人であの部屋にいた事、全部消しちゃったんだよね…



「…彼が…」


 海さんがつぶやく。

 カトマンズの事件を一人で片付けた人間。って…認識したのかな。



「…トシ?」


 ふいに、泉ちゃんが彼の名前を呼んで。

 SAIZO君が目を見開いた。

 …あたしも。



 …志麻さん…



 自分だけを消したの…?





 〇高津薫平


「がっ…!!」


 ドサリ


「はー……」


 頭使うのは好きだけど、体張るのは得意じゃないんだよねー。

 そんな事を思いながら、足元で伸びてる輩を見下ろす。


 我ながらいい出来だと思った武器は、さくらさんの手によってグレードアップ。

 ひ弱な俺でも一発で勝てちゃうってわけだよ。



 泉とアオイを適当な窪みに放り込んで、防護シートを被せた。

 きっとあいつらは無事なはず。


 心配なのは…


「…志麻さん、どこでどうなっちゃってるわけ…」



 高い木の枝によじ登って、港を見渡す。

 小型キャサリンで確認するも…志麻さんが乗ったままのヘリは見つからない。


 俺、一杯食わされたかな。

 志麻さん、ほんっと…勝手だよ。



 まずは、二階堂のホテルで…


 騙された。と思った。



 志麻さんが言った。


『紅さんは最上階にいる』って。


 だから…志麻さんと俺はその情報を一条に流して、あえて母さんを引き渡す作戦を組んだ。

 そばにいる方が守れるし…

 敵の一番深い所まで行けると思ったからね。



 なのに、母さんはいなかった。

 それについては、志麻さんも『さくらさんにやられた』って言ってたから…

 きっと、あの人の仕業だよ。



 ともあれ。

 母さんを連れて行けなかった事で、俺達の状況は悪くなった。

 そりゃあ、ボスの足元に乱射しなきゃいけなくもなるよ。

 俺、無事に帰れたとしても…相当なお仕置きだろうな。


 それから、俺だけヘリを下ろされた。

 一応洗脳されてる事になってるけど、母さんを連れて行かなかった事で信用はガタ落ち。

 丘の家の周辺に二階堂を見付けたら殺せって命令が、俺に降りた。

 本当に洗脳されてるなら、殺れるだろ。って。

 ま、適任だよ。

 なんたって、誰一人殺さない、死なせない、だし。


 志麻さんは人質として残された。

 人質っつっても、上手い具合に銃撃ったり電波妨害を解除したり、そこそこに一条の手助けしてるから…たぶん信じられてるよね。


 だから俺…


「……」


 ふと、違和感を覚えた。


 俺…バカだ。

 何で気付かなかったんだよ…


 ホテルの最上階に母さんがいない事、きっと志麻さんは知ってて…

 俺だけを、ヘリから下ろす状況に仕向けたんだ…


「何やってんだよ…っ…」


 木から飛び降りて、港に駆け出す。

 俺の洗脳プログラムは回路が分けてあるから、忠実な一条コースの薫平データは一条に流れっ放し。


 走りながら、二階堂コースの薫平にシフトチェンジ。


「こちら薫平。戦闘機が来てるけど、一条のヘリの情報が欲しい。」


 早口で言うと。


『こちら富樫。ヘリはDTR567から離陸したという情報あり』


『こちら本部。ヘリは現在SNT245付近を飛行中』


「…DTR567からSNT245?」


 どこへ行く気だ…?

 そのヘリ、港でぶっ壊す予定だったのに…


 一条側の通信を傍受しようとしたけど、なぜかもう繋がらなくなってて。

 それも…きっと志麻さんの仕業に思えた。


『こちら瞬平。一条の拠点が分かった』


 焦ってる俺に、心強い声と言葉が飛び込んで来た。


「待ってた。」


『…勝手に言ってろ…』


 瞬平はボソッと、そうつぶやくと。


『一条の拠点は、パトナーとカトマンズの間。車では移動しづらい山岳地帯。そこに研究所と工場があるよ』


 瞬平の言葉と同時に、反応したチップが目の前に地図を開く。


『たぶんヘリの乗員は、どこかでジェットにでも乗り換えるだろうね。僕らが戦闘機に気を取られてる間に、何か始めるつもりじゃない』


 もう、悪い予感しかない。

 このまま港に走って行ったって、どうにもならない。

 やって来る戦闘機に対抗するための武器は、すでに運び込まれてるだろうけど…

 それより…


「志麻さんが危ない…!!」


 気が付いたら、大声で叫んでた。


 SSに行く。

 たぶんそうなんだろうけどさ。

 そうだとしたら、ここで死んだ事にしなきゃいけないわけだから…

 おあつらえ向きなのかもしれないけどさ。


 これ、本当に死んじゃうよ…!!



 俺がガラにもなく焦りまくってると。


『誰一人、死なせない』


 突然…ボスの声が聞こえた。

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