第49話 『は?おまえ、何言ってんの』
〇高津薫平
『は?おまえ、何言ってんの』
耳に飛び込んで来たのは、自分と同じ声。
つまり、瞬平の声。
だけどその口調は、不機嫌極まりない。
「だーかーらー、瞬平が作ったリムレってやつ。俺が改良して最強にしたんだけどさ、ちょっと試しに貸し出していいかな。」
『改良!?何勝手な事してんだよ!!』
「怒るなって。てか、瞬平、今どこいんの?」
『……』
「あ、分かった。ボスんちの近くだろ。」
『うるさいっ』
瞬平は分かりやすい奴だなあ。
以前…
まだ、ボスの奥さんが独身で、志麻さんと知り合った頃。
瞬平は、彼女と同じ会社にいた。
で、恋をした。
志麻さんの彼女だから好きになった。なーんて、周りにはほざいてたみたいだけど。
完璧落ちてたよなあ。
だから本当は辛いんだろうなって思う。
ボスと奥さん、本気で仲良しだしさ。
彼女、志麻さんと居た時より、断然幸せそうだし。
で。
そんな幸せ家族の家に、どうして瞬平が行ってるかというと…
あの家、一度敵に侵入されたからね。
でもさ、今奥さんは日本に帰ってるし。
危険はないはずだけど。
自分の開発した防犯カメラ、片っ端から取り付けに行って…ほんと、バカじゃん?
前にボスが取り付けてた、瞬平が作ったやつ。
十分役立ってるって言うのに。
『貸し出すって、誰にだよ』
「あ~、サクちゃんのおばあちゃん?」
『…あ?』
「二階堂史上最強の人らしーよ。」
『……はっ。笑わせる』
ま、瞬平の事だから…『おばーちゃん』が最強なんてない。って思ってるんだろうなー。
うんうん…分かるさ。双子だから。
俺だって、さっきまではそう思ってたし。
けどさ。
戦闘機が来るまで二時間。
そう言われて、志麻さん達と落ち合った時…
「…浩也さんと同じ歳って聞いたけど…」
俺、つい、指差しちゃったよ。
「俺も何度会っても目を疑う。」
志麻さんが真顔でそう言うから、本当にそうなんだろうけど…
どう見たって、60代には思えない。
「…何か若返りのプログラムでも…」
上から下までジロジロと眺めながら言うと。
「そんなのあるわけないじゃないっ!!」
ビッターン!!と、腕を叩かれた。
「いてっ!!」
「あっ、ごめんごめん…」
「…俺、ここに来るまでちょっと調べましたよ。結構長い間、寝たきりだったって。」
…そう。
目の前の、見た目は若い…ボスの奥さんのおばあちゃんは。
長い間、寝たきりの生活を送ってた。
それに関わってたのが、二階堂の…アレだ。
二階堂がずっと悔いている事件が、二つある。
どちらも、一般人を死なせてしまった事件だ。
その一つが…
この、目の前の『若く見えるお年寄り』が本当に若い頃。
一人で、テロリスト全員を射殺した。ってアレだ。
事の顛末は、全部伏せられてたみたいだけど。
その事件の後、この人は『事故に遭って昏睡状態が続いている』って事にされてたのを…カトマンズの事件後、
「うん。だから若いままなのかも。」
そう言いながら、両手を差し出された。
「?」
「作品。」
「ああ…」
作品。なんて…初めて言われた気がする。
俺は、抱えてたリュックの中から、小型の物ばかりを出して見せた。
すると…
「えー…これすごいね。ふむふむ…水に濡れても平気なんだ。」
「うわあ、これ、PP付けたらスパイダーマンみたいにビルをよじ登れそうじゃない?あっ、出来るね…うんうん。」
「へえ~…なるほど…これとこれ、組み合わせると面白い効果が得られそう。」
「はっ…こういうの!!あたしも作ってみたかったの!!」
「………」
俺と志麻さん、無言で顔を見合わせたよ。
今までは…俺と瞬平が何かを作ったとしても、それは装置や武器として、使う側に説明して渡したら終わり。
こんな風に興味深く………ん?
「作ってみたかった…?」
最後に耳に届いたワードに首を傾げると。
「うん。便利な物とか作るの好きなの。」
そう言いながら、お年寄りはすでに俺の作った小型のレーザー銃に何か取り付けてる。
「えっ、何して…」
「ほら、こうすると面白い。」
ポンッ
「………」
俺の作ったレーザー銃は。
お年寄りが取り付けた何かによって…その銃口から20cm大のシャボン玉を吹き出した。
自分の作品をバカにされた気分で、ムッとしたままその球体を叩こうとすると…
「あっ、触ると痺れるよ。」
「えっ。」
「だって、君が作ったんでしょ?このレーザー、かなり殺傷能力高そう。」
「……」
「あたし、誰も」
「い゛っ!!」
お年寄りが説明してる最中。
好奇心からか、志麻さんが球体に触って奇声を発した。
…良かった、触らなくて。
本当に痺れるんだ。
「…志麻さん…今痺れるって言ったのに…」
「す…すみません…」
志麻さんは左手を大袈裟に振った後、『これ、すごいな』と小さくつぶやいた。
「…敵を叩きのめす。そのためには、殺傷能力の高い武器が必要になるのは当然でしょ。」
俺がお年寄りの目を見て言うと、彼女は真っ直ぐに俺を見返して言った。
「うん。敵を叩きのめす。それはあたしも同じ気持ち。だけど…殺しちゃダメだよ。」
「…はい?」
「恨みは残る。だから、あたしは自分の手で…終わらせなきゃいけないって思ってるんだ。」
「………」
俺と志麻さんは、息を飲むのも忘れて…頭の中でデータを開いた。
あの時、一人の少女が射殺したテロリスト集団。
その日現場に居合わせなかった生き残り数人が、敵対していた集団と一緒になって一条を再生させた。
お年寄りが言ってる『恨みは残る』は…
あの時射殺された中に、リーダーの妻がいたからだ。
リタ・イチジョウ。
それは…
俺の母さん、高津 紅の…母親。
「大事な人は、守りたいから。」
その言葉で。
俺は、すっかり…さくらさんを信じれるようになった。
大事な人は守りたい。
俺もだよ。
「…一応聞くけど、日本の家族は安全なんですか?」
組み立て式の武器をセットしながら問いかける。
一条は手段を選ばない。
だとしたら、ボスの妻なんて格好の餌食だ。
それは志麻さんも気にしてた所なのか、少しだけ視線をさくらさんに向けた。
「あ、大丈夫。家の防犯は海さんに教えてもらったクリーンの装置を改良してるから、バッチリ。」
「…クリーンの防犯装置を改良…?」
街はずれにある二階堂の施設には、最強クラスの防犯システムが設置されている…けど…
「認識作業に五秒かかるって聞いてたから、DOKLのチップにSLを埋め込んで瞬時に出来るようにしちゃった。」
「…って…いやいやいやいや…五秒かかるからこそ正確なのに?それに、あのチップにSLなんて対応出来るはずが…」
俺が反論すると。
「補強したの。」
「補強?何で…」
「片栗粉。」
「か…」
唖然とする俺を見た志麻さんが、珍しく吹き出して笑った。
「それと、正確さを求めるために3Dシステムも搭載。」
「……」
「で、侵入者があきらかに敵だと分かったら、想定外の攻撃が仕掛けられる事になってるの。」
…想定外の攻撃。
それがどんなものなのか、俺と志麻さんには想像も出来ない。
だってさ…
さっきから、さくらさんの口から繰り出される言葉は、全部俺達の想定外。
「でも、家の外で狙われたりしたら…?」
「お手製の防犯ブザー渡してあるから大丈夫♡」
「……」
防犯ブザーぐらいで。
…とは、思えない俺がいる。
たぶん、目の前で技術を見せ付けられたせいなんだろうな…。
「…薫平。」
悔しい気持ちもなくはないけど、こんな技術者…しかもお年寄り。
俺の上どころか、上の上。
もう、ワクワクしてる自分に気付いて、ほんのり笑顔になってる所に。
ふいに、志麻さんがバツの悪そうな顔で俺に言った。
「実は…さくらさん、紅さんを連れ出したそうだ。」
「……」
志麻さんが何を言ったのか、すぐには把握できなくて。
「…は?」
間抜けな声で、再度二人に言う。
「…はあ?」
「大丈夫。紅ちゃんはまだまだ戦える。」
「ちょっ…えっ?」
「戦えるって…紅さんに何をさせるつもりですか?」
志麻さんも、連れ出した事以外は聞かされていなかったのか、武器をいじってるさくらさんに問いかける。
「紅さんは一条の標的です。安全な場所に…」
「紅ちゃんにだって、守りたい人達がいるんだよ。」
「……」
「ずっと守られてばかりは…ソルジャーとして辛いよね。」
カチャ
さくらさんは、シャボン玉が出るように改良した俺のレーザー銃を、さらに回転式に改良して。
「大丈夫。これから、二階堂は最強チームになるから。」
俺達に笑顔を向けた。
「…最強チームって…」
青春かよ。って笑いそうになったけど、嫌じゃなかった。
ましてや…
母さんの事、ソルジャーって言ってくれたのが…嬉しかった。
「で、この作戦って、ボスは知ってる事?」
志麻さんに問いかける。
「いや、知らせてない。」
「ふーん…さくらさん、最強チームって、誰と誰。」
「二階堂全員よ。」
「作戦、知らせてないのに?」
俺と志麻さんの疑問に、さくらさんは上を向くと。
「知らせてなくても分かるよ。だって、二階堂は元々チームなんだから。」
当然。とでも言うような顔をした。
…そっか。
二階堂って、元々チームなのか。
「…二階堂にいる時に、あなたに出会いたかったな。」
小さくつぶやくと。
「いつ出会ったとしても、誰だってチームになれるよ。さ、今日からよろしくね!!」
さくらさんは、俺と志麻さんの手を取って。
「悪い奴ら、叩きのめすぞー!!おー!!」
一人でそう言って、俺と志麻さんを苦笑いさせた。
『…で。僕は今からどうしたら?』
俺の簡単な事情説明で納得したのかは分からないけど。
瞬平は、素直に話に乗ってくれた。
「ホテル近辺に行って、ドローンが現れる前に近隣住民避難させといてよ。」
『簡単そうに…』
「あと、ボスにも『何も知らない』的な芝居しといてちょ。」
『…ったく…』
母さんの件も含めて、さくらさんがどれだけすごいか。って話はしたけど…
志麻さんが一緒に居た事は話してない。
ついでに、俺と志麻さんに洗脳プログラムが入れられてた事も。
…何となくだけど。
志麻さん、この騒ぎに乗じて…SSに行くつもりなんじゃないかな。
そんな気がしてて…
もしそうだとすると、瞬平はそれを止めようとする。
俺はー…志麻さんの気持ち、何となく分かるから。
だから、誰にも止めさせたくないって思った。
「さー…最強チーム、ミッション開始だ。」
口に出すと、少しこっばずかしい気がしたけど、悪くはなかった。
行く時とは重さの違うリュックを背負って。
「おはじきー。」
どこにともなく声を掛ける。
「にゃっ。」
頼もしい俺の相棒は、近くのアパートの窓辺から軽く跳び下りて、俺の肩に乗った。
「お前には、おつかいを頼むよ。」
「にゃにゃっ。」
「ははっ。いつもごめんな?猫使い荒くて。」
頭を撫でながら、その可愛らしさに目を細める。
俺は、今から一条に潜入する。
洗脳プログラムで、一条の素晴らしさに感銘を受けた。
俺と志麻さんの手で…
二階堂を。
そして、邪魔なSAIZOを。
さらには…
三枝も。
叩き潰す。
って、演じ切る。
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