第8話 ボスをSSに送り込むために
〇二階堂 海
「ボスをSSに送り込むために、カトマンズの事件を起こしたのか…ボスを行かせたくなくて、カトマンズの事件を片付けるよう…第三者に解決を依頼したのか。」
「……」
「教えてください。」
薫平の質問に…親父は目を伏せて小さく溜息をついた。
俺はその様子を静かに見つめた。
俺を…咲華とリズと共にSSに送り込むために、カトマンズの事件を起こしたか。
俺達を行かせたくなくて、あの事件を片付けるよう第三者に依頼したか。
普通に考えると、どちらであってもおかしくない。と思う気持ちと。
咲華のためには、どちらでもあって欲しくない。と思う気持ち。
…しかし、そのどちらとも…
今はどうでもいい。
『あたし行くよ』
そう言った泉に、何の言葉もかけられなかった。
泉の能力の高さを認めている反面…選考委員から満点の評価を得た泉に、嫉妬していたのかもしれない。
俺はトップだと言うのに。
一人で行く事すら…望まれない。
だが…何より…
SS行きを即決断した妹に。
心配する感情より嫉妬が上回った事が、自分の器の小ささを痛感させた。
…見抜かれて当然か。
トップにさえ、相応しくない。
「正直に話せと言われると…事件を起こしたのは私ではない。」
親父の言葉に、富樫が肩の力を抜いたのが分かった。
「事件の流れで海をSSに行かせることも考えた。それで…瞬平に地下牢の救助指示は出すなと命令した。」
「…頭が第三者に依頼したのは、どこからどこまでなんですか?」
薫平の追求は続く。
恐らく、全ては聞かされていないであろう瞬平と。
中途半端に『他者に依頼した』としか聞かされていない俺と富樫。
気になって仕方なくとも…俺達から聞けるはずがない。
親父が苦悩していた様子は、何となく気付いていたし…
それがこの事だったのか…と思い知らされると特に。
「…上手くやってくれ。としか伝えていない。」
「は…?」
「今の二階堂では…一条に太刀打ちできない。」
「……」
その言葉は…俺達全員の胸に刺さった。
今の俺達では…太刀打ちできない…?
「それで…よそ者に依頼した…と。で、そいつらってどんな組織なんですか?」
薫平はおもしろくなさそうに足を組んで、斜に構えて親父を睨んだ。
富樫がその足を叩いたが、薫平は組んだ足を下ろした代わりに腕を組んだ。
「自分の組織を信じられなかったってわけですよね。」
「実際、何も出来なかっただろ。」
「…それ言われちゃー…評価通りって答えるしかないですけどねー。」
投げやりな薫平の声。
確かに…俺達は何も出来なかった。
だが、可能性はゼロじゃなかったはずだ。
「…一条は、そんなに大きくなってるって事か…」
誰にともなくつぶやくと、親父が大きく息を吐いて。
「今回の任務を成し遂げたのは『SAIZO』という若者だ。」
俺達一人一人の目を見て言った。
「……」
言ってる意味が、すぐには分からなかった。
「…サイゾーって若い組織が、二階堂を救ってくれた…って事ですか?」
富樫が遠慮がちに口を開く。
だが…
「SAIZOという若者が、『一人』で二階堂を救ったんだ。」
親父の口からは…信じられない言葉が飛び出した。
〇高津薫平
『SAIZOという若者が、『一人」で二階堂を救ったんだ。』
いつもなら…涼しい顔でやり過ごせるのに、今回ばかりはそうはいかないみたいだ。
いやんなるなあ。
二階堂を抜けたって言うのに…俺も相当な二階堂脳だよ。
ま、仕方ないか。
小さな頃から、それであるべき。って育てられたわけだし。
俺がこんな気持ちになるんだ。
二階堂で頑張ってる瞬平は…もっと酷い事になってるだろうね。
…それにしても。
泉が満点とか。
ま…分かるよ。
ああ見えて、泉は誰よりも感覚が鋭い。
だから分かるけどさ。
それでも…ちょっと贔屓されてない?ってさ。
少しのやっかみも含めて、俺はそう思っちゃうね。
俺達を採点した奴って、誰なんだろう。
富樫さんの点が低過ぎたのも引っ掛かったな。
天然な人だけど、信頼出来る。
まあ…確かに、命に関わる現場では背中を預けられるかと言われると…
「…ごめん、富樫さん。」
誰もいない部屋で、小さくつぶやく。
やっぱ、背中を預けるなら…瞬平か志麻さんだよなー。
その志麻さんは。
頭もボスも居る場で。
『泉』なんて呼び捨てちゃって。
俺が一条の事を探ってる間に、ちゃっかり泉にロックオンしてやんの。
…ムカつく。
俺だって…泉の事、ずーっと好きだったのに。
桐生院の坊ちゃんと付き合う前から、ずっと。
だけど、俺は…一条 紅の息子だからさ…
一瞬、夢見掛けたけど…
やっぱ、無理だよねー。
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