【短編版】俺のツンデレ彼女が可愛い過ぎる件

第4話 （気化・殻） /改稿20200101

　（気化・殻）

　きょ〜う〜は〜べんとっうぅ〜。からあっげ〜！

　…なんて…へんな歌を歌うぐらい動揺していたんだ。まぁ動揺は隠せるから表には出てこないけど。

　てか俺以上に動揺してるのは雪葉だな。

　…自分から弁当持って近づいてきたくせして動揺…というか緊張か、してるのは…おかしくないな…。

　…フゥ…落ち着こう。

「…悠人…いっ…。た…食べ…」

「一緒に食うか？確かそこの席のやつ学食だし座れよ」

「え…あ…じゃ、じゃあ座ってあげ…」

　ここまでの俺の行動も発言も間違っていなかった。あたかも俺が誘ったようにして、雪葉の羞恥心を煽らない。

　ここまでは良かったんだ。でも煽ってくる奴がいるのは考えてなかった。

「おい悠人！お前何普通に弁当イベントこなしてんだよ！」

「違ぇよ！お前は黙ってろ！」

「…っ、違うから。別にそういうわけじゃないし。勝手に悠人が誘ってきてから仕方なくだし」

　…雪葉のふて腐れた顔が可愛いからと言って俺は調子に乗らない。雪葉が最初に『食べよう』って途切れながら言ったんだぞ！めっちゃ可愛く！

「おい雪葉！」

「…なに？うるさい、変な目で見られるから止めて。折角一緒にご飯食べてあげようと思ってたけど気分削がれそう。

　じゃあいただきます」

「…い、いただきます…」

「悠人め…覚えてろっ！」

　俺のセリフだ。

　正直『ツン』が『ツン』過ぎて目から汗が垂れるが…。冷徹な顔の割に目の下が少し赤いことが唯一の救いだ。

　数分経てば雪葉の冷徹さは融解する。そのまま気化すればいいのに。毒舌が抜けた雪葉の方がやっぱ好き。

「雪葉の弁当美味しそうだな」

「…あげたくないけど…どうしても欲しいならあげる」

　とかいいつつ最初から弁当の隅に寄せられていた卵焼きを俺の弁当に移す。てか俺欲しいって言ってないし。欲しいけど。

「おいお前！」

「お前は黙ってろ」

「黙って。物乞いに餌をやるぐらい人道的に必要な事…」

「人の事物乞い言うな！この毒舌ンデレ！」

「…死ぬ？」

「卵焼きくれてありがとうな〜。いただきま～す」

　クラスメイトにからかわれると途端に毒舌S嬢になるのはやめてくれ…。恥ずかしいからなんだろうけど…。

　目からこぼれる水と共に玉子焼きを口に含む。だし巻き卵か…親父が作ってくれてたのとは違うけど確かにだし巻き卵だ。

「ど、どう？」

「美味いっ、久しぶりにだし巻き食った！」

「よかった…私が作ったから…」

「え？これ手作り？」

「ん…」

「マジか！卵焼きってムズいのにすごいな！お返しにこれいるか？」

　俺はおかずの唐揚げを箸で指す。

「えっい、いらないっ…」

「あ…そう…」

　結構凹む。そんな即答しなくてもいいじゃん…かなり頑張って作ったんだし…。

「けけけ、けど…く、くれるなら勿体ないからもらうっ」

　雪葉はそう言いながらも、俺の弁当から唐揚げを奪い去り、俺が顔を上げた時には既に唐揚げを囓っていた。リスのように齧るのは反則すぎる…。可愛いんだよ…。

「俺の手作りだけど…不味くないよな？」

　雪葉は自分の囓った唐揚げをじっくり見た後、俺を見て、冷徹と羞恥心のない純粋に嬉しそうな笑みをぱぁっと浮かべた。

　一瞬、卵の殻を噛み砕いた気がしたのは気にしないでおこう。