第5話 (イヤホン・背伸び) /改稿20200101


 (イヤホン・背伸び)


「よっ、偶然だな」

「…ん…」


 朝、いつもの交差点。

 雪葉がイヤホンを外そうとする。別にいいのにさ。音楽より俺か…なんか嬉しいな。


「別にいいって、音楽きいてていいぞ?俺もスマホで…」

「ん…別に一緒に聞きたい訳じゃなくて自分だけ聞くのがイヤなだけだから」


 雪葉さん、耳にイヤホンを押し込まないで下さい、痛いです。

 …ってコレサァァァッ!イヤホンで結ばれちゃいました、繋がっちゃいました系統のアレやん!マジで!?


「…っ///」


 雪葉さん、貴方今さら気がつきました?

 雪葉は俺の耳を見て、顔を真っ赤に染めた後、ハッとしたように顔を暗くした。

 なんかあったのか?俺の耳でイヤホンが汚れるとk…。


「Bluetooth?」

「…変に発音いいのなに?…そうだけど…」


 電子的に俺たちは今、繋がっていると言うことだな?

 …完全ワイヤレスイヤホンとかマジ少女漫画ぶち壊してて草ァァァ!…生えねぇわ。俺が笑われる側だよ…何やってくれとんねん…。


 雪葉も俺も、意気消沈とはこのことか…。って改めて思いました、マルっ!

 悲しみで頭がおかしくなって…それでも終わらないのが俺氏。


『Battery low』


 ネイティブの声と共にブチンッと音楽が途切れる。それは雪葉も同じだったようだ。


「ぁ…電池切れ…」


 雪葉が俺の前に差し出す手の上に、イヤホンを置く瞬間、妙案が浮かぶっ!

 俺はポケットから絡まったイヤホンを取り出し解くっ!


「こ、これ使えば聞けるぞ…」

「…ん…一緒に聞きたくなんかないけど…許すっ…///」


 雪葉は素早くイヤホンをスマホに差し込み、片耳を俺に押し込んだ。

 …音楽を聴くこと数分。俺たち何やってんだろ…。


 俺のイヤホンは片耳が壊れている事を忘れ、学校までイヤホンを共有して歩いていた。



 そう…私は、イヤホンから音楽が流れてこないけど…『繋がってる』のが嬉しかったから、黙って悠人の隣を歩いた。




 デートに誘いたい。俺の頭がその欲望を生み出し、口を開かせた。


「雪葉…」


 告白は出来たくせにデートに誘えないのは如何したことか。

 …そっか、罰ゲームじゃなくて自発的なもんだから…か。雪葉のことが好きなんだな…。


「何?」

「あ〜あのさ、今週末の日曜って空いてる?」

「…っ空いてる…」

「Let's go date!(デート行こうぜ!)」


 なんで英語?…言語が違えば言った言葉を実感せずに済む。そしたらストレートという名の婉曲に伝えられる訳だ。えっへん!

 …だが、雪葉は口をピクピクと震わせながらも顔をしかめていた。

 顔も赤い。多分意味は分かってるはずなのに…不満げに俺から一歩取る。


「…日本語で言ってもらわないと分からない。

 デートに誘ってるふうに聞こえたのは私の聞き間違えでしょ?

 背伸びして英語使っても伝わらなかったら意味ないし、文法間違えてるし。

 たとえそうでも土下座して頼み込んだら考えてあげも無くもないけどそうじゃないなら…」


 備考:今日の雪葉はツンが少ない。

 フゥ…日本語で誘うか…。どうせ『土下座しろ』って言ってるけど土下座しなくていいだろうし。


「…デー…今度の日曜日遊びに行かないか?」

「…分かった。遊び相手になってあげる。時間と場所は?」


 目の前に地面があるのは、手が地面に触れているのは、膝がアスファルトに食い込んで痛いのは、決して、土下座のせいではない。

 そして立ち上がった後に感じる雪葉の呆れた視線は気のせいだ。


「朝の十時半に紅宮駅前に集合でいいか?」

「ん…じゃあね。また明日…あと…」


 青信号。雪葉が背伸びして俺の耳元に顔を寄せて言う。


『土下座する勇気があったならカタカナで言って欲しかった』


 そして横断歩道を渡る。髪が揺れている。

 雪葉が渡る途中で赤信号に変わり、雪葉は真ん中の安全地帯で止まった。そしてこっちを振り向き、にっ、と笑う。



 雪葉が可愛くて顔が真っ赤になったのは、見られていないと願いたい。


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