第3話 (蜘蛛・指輪) /改稿20200101


(蜘蛛・指輪)


「前回でパソコンの使い方は教えましたので今回から二人一組でペアを作って、皆さんご存じのね。この学校の親会社って言い方で伝わるかしら?

 まぁその青京会社の広告の制作をしま~す」


 情報…又の名をPC、技術。


「制作期間は一学期間。優秀作品には賞品と…青京が認めたらそのまま広告として使われます。

 ではそれぞれ概要のプリントを配るのでそしたら好きに組んで下さ~い」


 教室をぐるっと見回す…と雪葉と目が合った。なんとなく視線を逸らすと向こうも逸らしていた。

 出来ることなら雪葉と組みてぇけど…。


「ねぇ雪葉ちゃん組まない?」

「ねぇ雪ちゃんは彼氏と組むでしょ。私を誘いなさいよっ」

「だってねぇ…機械音痴じゃん。まぁいいや。組もっか」

「雪ちゃん、彼氏取られないように速く誘うのよ?」


 そんな声と共に…雪葉が近づいてくる気配がした。


「…くも…」


 その小さな声と赤い顔を見ると心臓が意味もなく跳ねた。その気恥ずかしさが俺に『うん』といわせない。


「へ?くも?あぁ、今日は曇りだな」

「…っ」


 悔しそうに雪葉の唇が震え出す。

 同時に女子達から雪葉の背中越しに睨まれた。…悪寒がするぜ…。


「ごめんごめん。よし、組もうか」

「…っ…組もうなんていってない…。悠人と組みたいなんて思ってない…」


 備考:雪葉は頑固。

 …えっと…とりあえず睨むの止めてもらっていいですか?お姉さん達。


「あ、うん…俺と組んでくれないか?」

「…ゃ…。悠人意地悪するし、組みたくないっ…」

「あー…ごめん…。俺は、雪葉と組みたいな~って思ってる」

「…っ…そっちが誘って来たから組んであげるだけだから…ね…///」


 そう言って雪葉が俺の隣に座った。…セーフ…これで断られてたら土下座以外に方法がなかったぜ。


「…組んでくれて…ありがとな」

「ん…」


 恥ずかしげに頷く雪葉が可愛かったのを記憶している。




「よしっ…まずは書きたいことまとめてくか」

「ん…」


 課題内容はコンサル向け。商品宣伝じゃなくて、会社と提携を撮るための広告。結構な難題を生徒に押しつけてきやがったな。

 配られた冊子を捲って、赤ペンを筆箱から取り出す。


「ん~…まぁ経歴とかはいらんよな〜…実績は必要でも。広告だし」


 線を引いていく…と、雪葉が呟いた。


「悠人、対応姿勢って書いてある部分。これキャッチコピー作るのに使える…」

「ん?どこだ?」

「四枚目の下から二段落目」


 え~っと…どこだ?あ〜探しても見つかんないやつだコレ。


「ここ…ほら」


 雪葉が俺の紙を覗き込んで、指をさす。

 雪葉の顔が急に近づいてドキってしたせいでペン先がズレて…雪葉の薬指の爪を俺のペンが滑った。赤い線が、綺麗な爪に残る。


「あっ、ごめんっ」

「…いい…それより分かった?」

「おう、サンキュ。で、ちょっと待って」


 ポケットの中を探る…今朝配られたティッシュがあるはずだ…。

 俺はくしゃくしゃになったソレを取り出し封を切る。

 そして雪葉の手を持ち上げて、雪葉の爪を拭いた。



 私は…変なことを妄想してしまった。

 悠人が私の爪を拭くところが、私の指に指輪を嵌めるみたいで…っ!


「バカッ…」

「すまん。よしっ…取れたかな?」

「っ…私はそんなっ…っこんしたいなんて…思ってない…ないったらないっ…」


 変な妄想を打ち壊さなきゃいつ口から零れるか分かったもんじゃない…。



 私はもう口から零れているとも知らず頭を抱えた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る