第2話 (実況・信号) /改稿20200101

 (実況・信号)


 ぼっちだから昼休みに本を読んでるわけではない。そもそも読んでねぇし。実際は雪葉の会話に聞き耳立ててるだけだし。けっ…。


「雪ちゃんさ、彼氏のどこがいいの?」

「顔はいいほうだけど雪葉ちゃんに合わない気がするんだよね〜」


 俺の事が話題なんだから気になって仕方がない。

 …俺の事だよな?多分大丈夫…なはず…。


「…えっと…」

「お〜いゆうと〜」

「んぁ?」

「あ、やっぱなんでもねぇわ。ゲームするやつ挙手っ!」


 …っておい、聞きそびれたじゃねぇか!くそっ…。


「そっかぁ…気付いてくれるんだ」

「やるじゃん、へぇ…」


 視線を向けると、その女子が俺と目を合わせて挑戦的に口角を上げた。

 数秒、『あれ?俺なんで見つめてんだ?』って思って焦って視線をそらす。品定めされた気分…。


「…ん。優しい…」


 今度は横目で見ると雪葉が赤い顔をこくりと縦に振っていた。

 胸が不意に強く跳ねる。なんかクールなのにああいう動きってギャップ萌えが激しいんだよなぁ…。


「何してほしい?その、接触的な意味で」

「ん…///…悠人と…」


 おっとぉ。お兄さんすごく変な妄想しちゃうよ?エロッチィこと妄想しちゃうぞぉ?夜なり大人なりのいとなm…ゲフンゲフン。

 さぁて…雪葉の願望はピンク色のことなのか!それとも純白真っ白なのか!


「…たい…」


 雪葉の声が脳内実況にかき消されたのは誤算だ。

 …変な脳内実況はもうやめよう。

 本を閉じるついでに…知らぬ間に口から大きなため息がこぼれていた。




「…なぁ、雪葉。昼休み何話してたんだ?」

「…きっ、聞いてた?」

「まぁな…でも何がしたいのかは聞こえなかった」


 その瞬間、雪葉の顔がボッという効果音と共に真っ赤になる。おっ、エロいことなのか?


「なんて言ったんだ?」

「…なんにも言ってない…」

「なぁ教えてくれよ~」

「やだ…」


 何回か問答をしているうちに最後の交差点に着いた。教科書を返す時に雪葉が口を開く。


「私は悠人と…」


 同時にバイクの轟音が雪葉の声をかき消した。


「…ぎたい…って言った。じゃあね…」


 顔を赤らめ、まだ赤色の信号を渡ろうとする雪葉。

 引き留めるために雪葉の手を強く掴んだ。


「ひゃっ…///」

「バーカ。危ねぇんだよ」


 逃がさないように強く雪葉の腕を掴みなおす。待つこと数十秒、『別に聞かなくてもいいか』と思うのと同時に信号が青に変わった。


「じゃあ明日な。教えたくないなら別にいいけど。気をつけて帰れよ〜」

「…ぁ…ありがと…っ」


 雪葉は早口でそう言って、逃げるように横断歩道を渡る…。



 『私の願いは叶っている』なんて恥ずかしくて言える訳がなかった。




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