第19話 今日は…ビートランドの新しいバンド『F's』のテレビ収録の日。

 今日は…ビートランドの新しいバンド『F's』のテレビ収録の日。


 レコーディングのセン君と陸ちゃんを置いて、僕は光史君と聖子と知花とで…収録スタジオの最後列で、そのステージを観た。


 F'sは…神さんと、アズさん、元SAYSの浅香さん、大御所の臼井さんと…

 Deep Redから、朝霧さんと…僕の父さん。

 文句なしに…カッコいいバンド。

 僕は一曲目から、鳥肌が止まらない。


 父さんが、またバンドを組んでステージに立ってるのも感激だし…

 何より…

 神さんが。

 息を吹き返した。


 そんな気がしたから。



 ノリのいいアップテンポな曲や、神さんとアズさんが頭を振りまくるハードな曲…

 もう、これ…

 早くCD出して欲しいーーー!!


 って。

 僕は最後列で飛び跳ねて聴いてた。


 神さんの左手薬指には…指輪。

 僕は…隣にいる光史君と、その向こうにいる知花の事も…何度も見てしまった。



『神千里、初のラブソングをどうぞ』


 朝霧さんのフリに…神さんは照れくさそうに小さく笑って。


『…Always』


 タイトルコールをした。


 客席を見渡す視線。

 …神さん、ここに知花がいる事…気付いてるかな…



 傷付けるつもりなんて いつもあるわけがない

 泣かさせるつもりなんて とてもあるわけがない

 幸せにしたいとか 隣にいてくれとか

 そんなありきたりな言葉はなくてもいいほど

 俺達は繋がってると信じていたかった


 やがて来た嵐が二人を引き裂いて

 自分の弱さを 自分の愚かさを知った


 過去は変えられないけど

 もしまだ間に合うなら

 幸せにしたいとか 隣にいてくれとか

 そんなありきたりな言葉から始めてみたいんだ

 残した傷を俺に消させてほしい


 もしまだ間に合うなら

 その手を取って 甘い唇を

 どんな嵐にも負けない強さで 守るから


 信じて欲しい

 いつも俺が想うのは

 ただ一人だけだと





 知花が…涙をこぼして。

 それを見た僕は、確信した。

 二人は、ずっと離れてなんかいなかったんだ…って。


 誰の計らいか分からないけど…子供達の存在を知ってた神さん。

 きっと…バンドをちゃんとする事で…知花を迎えに来るって決めてたんだ…



 聖子と光史君に促されて、指輪をはめた知花。

 そんな知花を見付けた神さんは…最後の曲が終わった後、客席に走り下りて…知花を抱きしめた。


 その様子に…僕と聖子と光史君は…泣き笑い。


 …うん。

 良かった。



 三人で騒然とするスタジオを出て、ルームに戻った所で…

 僕は光史君にハグをした。



「…まこ?」


「…何だろ。ハグしたくなった。」


「……」


 僕がそうしてると、聖子まで…光史君にハグをして。

 ついでに、僕にもハグして来た。



「…いい日だね。知花、良かったよね。」


 僕がそうつぶやくと。

 聖子は僕の肩に頭を乗せたまま『うん』とつぶやいて。

 光史君は…


「…センと陸が終わったら、飲みに行くか。」


 静かにそう言って…うつむいた。

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