第16話 「……」

「……」


 僕の目の前でぶーたれてるのは…聖子。

 頬杖をついて、グラスの氷をガシガシとストローで突いてる。



 今日、スタジオの後で…聖子に『お茶行かない?』って誘われた。

 何の予定もなかった僕は…OKしたけど…

 知花は何だか色々忙しそうで、謝りながら帰って行った。


 …知花がいないから、つまんないのかなー?



「…あのね?」


 唇を尖らせたまま、聖子はグラスに視線を落として…喋り始めた。


「お姉ちゃんがさ、結婚する話。」


「ああ…うん。結婚式しないっていう?」


「そう。」


 聖子の9歳年上のお姉さんが、このたび…ダリアの店長誠司さんと結婚する事になった。

 誠司さんと言えば…聖子のお母さんと同じ歳。

 とは言っても、17歳で愛さんを出産されたのと、誠司さんが見た目実年齢より若く見えるのと、愛さんが落ち着いてる事で…17歳差には見えない。らしい。


 僕はいまだに、『愛さん』に会った事がない。



「正直…なんであんなおじさんと?って思っちゃうんだよね…」


「……」


 あんなおじさん。で、ちょっとコメントしにくくなった。


「誠司さんの事は好きだけどさあ…それとこれとは別だよ。両親と同じ歳だなんて…それに、お姉ちゃんには婚約者もいたのに。」


「えっ。」


「…まあ…七生を背負ってるからね。」


「…そっか…て事は…婚約破棄したって事…?」


 聖子は相変わらずぶーたれた顔のまま、愛さんの婚約破棄のおかげで七生に色んな損害が出た事を話した。


 僕は…まだ子供なんだろうな…

 聖子のその話には、全然とピンと来なかった。


 ただ…

 好きな人と結婚するって…意外と難しい事でもあるんだ…って感じたのと。

 聖子、愛さんと仲直り出来てるのかな…って…



 結局…聖子の思いとは裏腹に、愛さんは誠司さんと結婚した。

 それは、あまり祝福されてはいないようだった。

 だけど僕らSHE'S-HE'Sは、陸ちゃんの提案で花束を贈った。

 それぐらいは許されるよね…って。



 結婚後の誠司さんは、お店(ダリア)に出る時間帯を少なくしたり、深夜だけ出たり…

 僕らはあまり会う機会がなくなってしまった。

 それでも僕らはダリアに通った。


 あそこは…

 Deep Redの始まりの場所だったり、聖子と知花が僕の誕生日を祝ってくれた場所であり…

 学校帰りに寄り道したり、デートの待ち合わせ場所にしたり…って、みんなの思い出の場所だから。



 できればいつか、聖子と愛さんの溝がなくなって。


「あたしのお姉ちゃん。」


 って…


 僕の大事な聖子に。

 聖子の大事なお姉さんを、紹介してもらえる日が来るといいな…って。



 心から、そう願ってるんだ。


 ---------------------------------

 続きは明日の7時から!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る