第14話 「ああ~…可愛いなあ~…」

「ああ~…可愛いなあ~…」


「毎日言ってるけど、ほんと…他の言葉が出て来ないわよね。」


 僕と聖子は、今…ボイストレーニングに行ってる知花の代わりに、双子ちゃんの面倒をみてる。


 双子ちゃん。

 ノン君こと華音君と、サクちゃんこと咲華ちゃん。


 そして…


「サクちゃん、ミルクの量半端ない。しかも、すげー勢いで飲むし。」


 目の前には、陸ちゃんと…


「ノン君の方が少し繊細な気がする。やっぱ女は強いのかな…」


 目尻を下げてるセン君。


 この二人、今日はオフなのに…こうして事務所に来ては、双子ちゃん達にちょっかいを出す。



 知花が双子ちゃんを出産して、半年が経った。

 その間に…ちょっとライヴしてみたり、レコーディングもあったり…

 目まぐるしく毎日が過ぎて行った。



 知花は…わけあって、光史君と暮らすようになった。

 聖子と僕は学校の寮だし、セン君はお父さんである浅井晋さんと一緒だし、陸ちゃんは…論外って言っていいほど汚いアパートに住んでる。


 そんなわけで、綺麗好きで面倒見が良くて、治安のいい場所に住んでる光史君のアパートが一番適してるわけだ。


 知花も一人で双子ちゃんをみるより、光史君と一緒に方が何かと助かるだろうし。



 …聖子も、光史君となら…って納得してるみたいだった。

 僕は…知花、まだ神さんの事好きなんだろうな…って察してるけど…

 もしかしたら、みんなも察してるのかもしれないけど…

 神さんは神さんで、TOYSのフロントマンとして…その道があるから。



「もー…何なんだろうね。この愛くるしさ。愛しくて仕方ないわ。」


「昨日も聞いたよ。」


「毎日言っても言い足りない。」


 聖子の言葉に小さく笑ったけど、それは僕も思うよ…

 本当、可愛い。



 こっちでも…僕と聖子と知花は仲良しで。

 SHE'S-HE'Sみんな仲良しだけど、三人は特別って気持ちが僕には…今もあって。

 聖子と知花はどう思ってるか分からないけど…

 僕は出来るだけ、二人の事は…特にサポートしたいなって思ってる。



「まこちゃん、今夜ちょっと時間いい?」


 トレーニングから帰って来た知花にそう言われて。


「え?うん。いいけど。」


「良かった。じゃ、後でまた来るね。」


 僕と聖子は朝霧さんに残るように言われてて、あと一時間居残り。

 オフの陸ちゃんとセン君は…


「じゃーなー。」


「頑張れよー。」


 知花と双子ちゃんと共に帰って行った。



「光史君もオフだよね?」


「うん。主夫してるんじゃない?」


「あー、そっか…光史君、いい旦那さんにな…」


「……」


「…光史君て、結婚願望なさそうだよね。あと、陸ちゃんも。」


 聖子の表情を見て、言い換えた。


 ああ…バカだ。

 聖子の気持ち…知ってるクセに。



「…まこちゃん。」


「ん?」


「あたし達…ビッグになれるよね?」


「…え?」


「あたし、みんなと…ずっと一緒にやっていきたいんだ。だから、今はバンドの事…集中して頑張る。」


 それは…何となくだけど、知花への気持ちは置いといて…って言ってるようにも聞こえた。



「…うん。僕も、ずっとSHE'S-HE'Sでいたいからさ…頑張るよ。」


「絶対よ?逆玉に乗るからバンドやめるとか言わないでよ?」


「何の話だよ…」


「例えばよ。」



 それから…僕と聖子は朝霧さんに、一応卒業出来たハビナスでの取得単位(ギリギリ)の事を切々と話されて…

 解放された頃には、若干グッタリしてた。



 会議室を出ると…


「あ、二人とも遅かったね。」


 廊下で知花が待ってた。


「うん…って…双子ちゃんは?」


「今日は三人でご飯に行こうかなって。」


「え?」


 首を傾げると、隣にいた聖子が僕の腕をがっちり掴んで。


「そ。バースデーイヴよ。美味しい物食べに行こ。明日は明日でみんなでお祝いだから。」


 ニッと笑った。


「……」


 去年は…渡米して色んな事に追われてる頃に誕生日が来て…

 知花の妊娠発覚とか…色々あって、おめでとうって言葉だけをもらった。

 僕としては、それだけでも十分なのに…



「これ、プレゼント。まこちゃん寒がりだから編んでみた。」


 そう言って、知花がバッグから取り出したのは…オリーブ色の手袋。


「えっ、手編み?ありがとう知花…」


「えー!!いいないいなー!!」


「って言うと思って、聖子のも。はい。」


「あっ、色違いだ~。まこちゃん、ほら。おそろ。」


 聖子は早速装着した青い手袋を、僕に見せびらかす。


「で、あたしも欲しくなったから編んじゃった。」


 そう言って…知花も赤い手袋を見せた。


「もしかして、全員に?」


 僕が問いかけると。


「ううん。あたし達だけ。」


「欲しがられるんじゃない?」


「でも、あたし達だけ。」


「……」


 それが…何となく嬉しかった。


 SHE'S-HE'Sは本当にみんな仲が良くて…家族みたいで…

 だけど僕達三人は、その中でも特別なんだ。



「まこちゃん、そのソーセージ美味しそう…」


「知花にはあげる。」


「何その言い方。あたし欲しいって言ってないけど。」


「あ、ごめん。聖子も絶対言うと思ったから。」


「……」



 桜花の、あの理科室でお弁当を食べてた頃と…変わらない。






 僕達、きっと…一生変わらないよね。

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