第13話 「ふう…」

「ふう…」


「知花、荷物持つよ。」


「あ…ありがと、まこちゃん…」


 アメリカに来て、半年が経った。

 そして、知花のお腹も…随分大きくなった。


 て言うのも、アメリカでの食事でぶくぶくと…じゃなくて。



 こっちに来て二ヶ月した頃…まさかの妊娠発覚。

 それも…渡米するにあたって意見の相違があったらしく、離婚した神さんとの…子供。


 僕個人の意見としては…

 正直に言うと…

 産んでほしくないって…思っちゃったんだ。


 だって、聖子から聞いた話だと…知花はアメリカデビューをする事で、家を勘当された…って。


 今、まさに僕らSHE'S-HE'Sだけが、知花の家族になってる。

 だけど本業はミュージシャンなわけで…

 知花には、たくさんの苦労を抱えて欲しくないって思ったんだ。



 だけど知花の意思は固かった。

 それならもう、周りは何も言えないよね。

 知花は万全な体勢で出産して、SHE'S-HE'Sもみんなで子育てに協力するだけだよ。



「さっき、ギターソロ後のシャウトで、お腹蹴られちゃった。」


「あはは。お母さんうるさいよっ!!って言ってたのかな。それとも、一緒にシャウトしてたのかな。」


 僕らはみんな…

 父親は神さんだ。って頭のどこかに置いたまま、それを秘密にする事で結束をより固くしてたと思う。



 毎日、知花の体調を見ながらのバンド練習やレコーディング。

 出産予定日は4月中旬。



「まこちゃん、彼女出来た?」


「…何で?」


「んー…なんて言うか、ちょっとキラキラしてる感じ。」


「あはは。そのキラキラは、たぶん知花といる時だけだよ。早く会いたいなーと思って。双子ちゃんに。」


 ちょっとドキッとしたけど、知花は僕の言葉にやんわりと笑ってくれた。


 …ほんと、鋭い。

 ハビナスの一学年下に…お互い好きとか付き合おうとかは言ってないけど…

 数日おきに、二人きりで会う子がいる。

 だいたい、彼女の部屋に呼ばれていくことが多い。


 寮なんだけどー…結構自由に出入り出来て、誰かに会っても…みんな割と口が堅い。

 お互い様。って事なのかな。


 なかなかキスの上手い子で……って。

 僕、学校帰りに遊び過ぎ…?

 聖子は学校が終わると、知花が入り浸ってる事務所にダッシュ。


 そんなわけで…僕はかなり充実したアメリカ生活を送っている。


 陸ちゃんや光史君みたいに、派手にナンパしたりしないから、誰にも文句言われないし。

 どうか…

 この平穏な生活が続きますように。


 そして、知花が無事、元気な赤ちゃんを産みますように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る