第8話 「まーこーちゃん。」
「まーこーちゃん。」
それは、体育の授業が終わって。
教室で着替えてる時だった。
今日は先生達のなんちゃら研修とかって…授業もお昼まで。
クラブ活動も禁止の日みたいで、教室は裸になってる男子でいっぱいだった。
あ、女子は更衣室。
「…聖子、そんなに堂々と開けなくても…」
僕がシャツのボタンを留めながら廊下に出ると、聖子の後ろに赤くなってる知花がいた。
「ほら…だから後にしようって言ったのに…」
知花は困った顔で、そんな事をつぶやいてるけど…
「みんなパンツ穿いてたじゃない。」
聖子は、それが何?って顔。
…聖子だなあ。
「で?何?」
首を傾げて問いかけると。
「今日、デート?」
聖子が真顔で言った。
「は?」
僕はシャツのボタンを留める手を…一瞬止めたけど、また動かし始める。
…ついでに、知花をチラッと見たけど。
知花はぷるぷると小さく首を横に振った。
聖子…カマかけてるな?
「デートって何。別に何も用事ないけど。」
「じゃあ、じゃあ、じゃーあ、帰りに寄り道しよーよ。」
聖子は僕の腕を取って、ぶるんぶるんと振り上げる。
「どこへ。」
「ダリア。」
「何しに?」
「何しにってー…」
聖子は知花と顔を見合わせて。
まるで話を合わせてたかのように…
「まこちゃんの、お誕生日会よー。」
同時に言った。
「……あ、そっか。」
10月25日。
僕、今日誕生日か。
今朝起きると、父さんは相変わらず仕事から帰ってなくて。
母さんは僕が弁当要らないって言ったからか…寝坊してバタバタしてたから…
僕も忘れてたー。
そんなわけで。
聖子と知花とで、学校帰りにダリアに寄り道。
本当なら、寄り道は見つかったらアウトなんだけど。
僕ら…結構してるかも。
寄り道。
「まこちゃん、誕生日おめでとー。」
聖子と知花がパチパチと拍手しながら、知花が作ってくれた小ぶりなケーキを出してくれた。
「ありがとう。」
「本当は持ち込み禁止だからな?」
ダリアの店長の誠司さんにそう言われて、ペコペコと頭を下げると。
「はい。誕生日らしいから、これは特別に。」
誠司さんはそう言って、笑顔でホットココアを三人分出してくれた。
「わあ、ありがとうございます。」
「いただきます。」
「やったー。」
僕の誕生日。
多田先生は、先輩と上手くいってるのか…最近はお呼びがかからない。
他校の女の子とも、バンドが忙しくて連絡を取らなくなった。
「そう言えば、言わせてもらうけどさ。まこちゃん、『If』のイントロで…」
「あー、分かる。まこちゃんが急に音数増やしたから、聖子舌打ちしてたよね。」
「えっ、聖子舌打ちなんてしたの…」
「だって!!あそこはあたしにも言ってくれなきゃいけないとこだったでしょー!?」
キスはしなくても。
身体が気持ち良くならなくても。
僕には、すごく…しっくり来る親友であり戦友でもある二人がいる。
「ついでだから、写真でも撮っとく?まこちゃんの誕生日だし。」
「聖子。ついでって…」
「いいよ知花。聖子には何言ったって…」
「あ、誠司さーん。シャッター押してもらえますかー?」
「…ほらね?」
「……」
よく周りから『どっちとデキてんの?』って聞かれるけど。
どっちかと付き合うとしたら?って聞かれる事もあるけど。
僕は、それに対して…
「どっちとも付き合わないよ。今の関係が最高だから。」
って答える。
本当…一生、大事な仲間で居て欲しいから。
「撮るぞー。」
聖子と知花に挟まれて。
三人でピースサイン。
キスはしなくても。
身体が気持ち良くならなくても。
二人と居ると、いつだって心が満タンな気分で。
…サイコーに幸せ。
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