第7話 「まこちゃん、最近可愛い女の子と一緒にいるね。」

「まこちゃん、最近可愛い女の子と一緒にいるね。」


 それは…夏休み明け、初めてのスタジオの日だった。


 まだ誰も来てないと思ってたスタジオで、鼻歌なんてしながら機材をセッティングしてると…

 いきなり、背後から知花にそう言われた。



「…今…僕、心臓が飛び出そうだった…」


 胸を押さえてそう言うと。


「そう?すごく落ち着いてるように見えるけど。」


 知花は首を傾げて僕を見た。


 …まこちゃん、最近可愛い女の子と一緒にいるね…


 知花の言葉をリピートして。


「…どこで?」


 二人しかいないのに、小声で問いかけた。


「青葉小学校の近く。」


「…知花、あんな所に用事あるの?」


「千里のおじい様のおうちがあるの。」


「…なーるほどー…」



 …しまった。


 知花は…口は固いけど、誘導尋問にはすぐに引っ掛かる…!!



「…妹がさ。」


「まこちゃんちは弟でしょ?」


「…あれ、女の子に見えた?母さんだったんだけど。」


「ツインテール?」


「…あ、それが僕で…」


「誰にも言わないってば。」


「……ごめんなさい_| ̄|○」



 僕はがっくりとうなだれた後。


「でも、別に付き合ってるわけじゃないんだ。」


 ハッキリと言った。


 そう。

 付き合うとは言ってない。

 バス停でたまに一緒になる…他校の女の子。


 夏休みに入る前、彼女から声を掛けられて…

 夏休み中も、三度ほど…デートと言うか…

 いや、付き合ってはいないんだけど…

 …でも、迫られたからキスはした。


 好きとは言われてないから、僕も言わない。

 言われても、言うかどうかは分からない。

 …好きかどうか、わからないし。


 でも、嫌いじゃない。

 …いい子だし。



「知花は、神さんのどこが好きなの?」


 好きって気持ちがハッキリ分からなくて。

 コーラス用のマイクをセットしながら、参考までに聞いてみたんだけど…


「……」


 返事がないなと思って知花を見ると。


 …真っ赤。



「…ごめん。」


 赤くさせて。



 見なかった事にしようと思って、アンプの裏側を見たり…コンセントをガムテで固定させたりしてると。


「…冷たいように…見えるでしょ?」


 知花は、巻いてクセのついたシールドを、まっすぐに伸ばしながら言った。


「神さん?…んー…そうだね。ナイフを口に持つ男…だっけ?口調も結構キツイし、怖いって思っちゃうなあ。」


 僕の持ってる神さんのイメージを、そのまま言う。



「そう…口調はほんと…乱暴だし…キツイ事も言うんだけど…」


「……」


「彼は…ちゃんと、その人を見て言葉を出してるから…」


 その人を見て、言葉を出す…


「…つまり?」


 ちょっと理解出来なくて、腕組みをしてしまうと。


「人には興味ないって顔して…ちゃんと見てるの。だから、SHE'S-HE'Sの事も…興味なさそうな顔してるのに、あたしが話してると的を得た言葉が返って来る。」


「…意外。神さん、僕らの事なんて微塵も興味ないかと思ってた。」


「あたしも…そう思ってたんだけど…ね。」


 知花はとても幸せそうで。

 それは…僕まで幸せにしてくれた。



 桜花の高等部を受験して入学した知花。

 高等部からの入学は、すごく狭き門なのに。

 そして…当然、グループが出来てしまってるクラスで、知花は浮いてた。


 一年の時は聖子とも同じクラスだったけど…

 今は教室で話す人もいないと言ってた。



 それでも…

 今は、家に帰ると…神さんと一つ屋根の下で生活してるんだ。

 幸せが、そこにあるんだ。


 一緒にバンドを組んで、知花の…口には出さないけど、ちょっとした闇みたいな物を感じ取ってる僕は…

 知花が赤くなる事が増えたの…

 本気で、嬉しいなって思うんだ。


 だってさ…

 なぜか分からないけど…


 初めて知花の声を聞いたあの日から。

 僕は…なんて言うか…



 知花には、運命みたいな物を感じてるから。

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