第6話 「まこちゃん…あんた、いつの間に…」

「まこちゃん…あんた、いつの間に…」


 夏休み。

 今日は聖子んちで宿題をやっつける会。


 知花は少し遅れて来るらしくて、先に僕だけ到着してしまった。



「毎日牛乳飲んでたからね。」


 僕は少し威張って背筋を伸ばした。


 そう。

 やっと…聖子に見下ろされる事がなくなった!!

 それどころか…追い越した!!



「くっそ~…見てなさいよ。追い抜いてやるんだから。」


「ぷっ。聖子、何センチまで伸ばすつもりだよ。」


 確か聖子の身長は170cm。

 長身ってだけでも目立つのに、長い黒髪と、キリッとした風貌で後輩女子からは絶大な人気を得てる。


 男子からは…ちょっと敷居の高い存在かなあ。


 クラスの男子から『おまえ、七生と毎日昼飯って…怖くね?』とか言われるんだよね…

 何でだろ。

 聖子、全然怖くなんかないのに。



「知花、夏休みは実家に帰ってるのかな。」


 僕がまだ手を付けてない英語のプリントを広げながら言うと。


「帰ってないんじゃない?知花の実家、色々厳しいから。マンションに居れば自由だしね。」


 聖子は眉を上げて、唇を尖らせた。


 そっかー…聖子も知花もいいとこのお嬢さんだけど…

 自由奔放な聖子とは違って、知花はすごく厳しい家みたいだ。


 でも学生結婚なんてしてるんだから…すごいなあ。

 神さん、どうやって説得したんだろ。



「あれ。まこちゃん、生物やっつけてんの?」


 お互いノートやプリントをバサバサと出して並べてると。

 僕の生物のノートを見た聖子が言った。


「…うん。」


「やった…どうしても3ページ目から先に進めなくて、挫折してたのよ。」


「分かる所だけやればいいのに。」


「一つずつクリアしていきたいじゃない。」


「嘘ばっか。」



 …生物は…選択科目なんだけど。

 多田先生の担当だから、受けた。


 そこには聖子もいた。


 知花は…


「化学と物理で悩んでる…どっちも取りたい…」


 って、信じられない事で悩んでた。


 …聖子は、たぶん…楽だと思って生物を取ったはず。



 多田先生は、僕以外にも三年生男子とも…何かあるみたいで。

 たぶん、僕はその先輩がいない時…つまり、セカンド的存在なんだろうな。

 でも全然それは苦じゃない。

 言い方は悪いけど…

 先生が僕を捌け口にしてるように…僕だってそうだから。


 …恋愛感情はないけど、こうやって課題の答えもそれとなく教えてくれるから…いっかな。


 …誰にも言えないけど…。




「遅くなってごめん。」


 知花が来た時には、聖子は生物のノートを写し終えてて。


「待ってたよ。英語のプリント。」


 僕と二人して、正座をして両手を出した。


「もー。あたしじゃなくて、プリントを待ってたの?」


「イエス!!」


 クスクス笑いながら、猫の刺繍の入ったトートバッグからプリントを出す知花は。


「プリンも作って来たの。」


「食べるー!!」


 聖子の手から、シャーペンを投げ飛ばさせた。


 だけど…


「終わってからね?終わらないと出さないから。」


 知花先生は、意外と厳しかった…。



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