第2話 「ねえ…まこちゃん…」

「ねえ…まこちゃん…」


 放課後。

 今日は帰りも聖子と一緒。

 て言うのも、知花はなぜかチャイムと同時に帰ってたのを教室から見たし…

 僕が音楽屋に寄り道するって言ったのを聞いてた聖子が、教室まで迎えに来たから。



「何?」


「今日の知花ってさ…」


「うん。」


「何だか…男の香水みたいな匂いがしなかった?」


「男の香水?」


「うん。」


「僕は新しい柔軟剤かな?って思ったけど。」


「…そう?」


「うん。」


「そっか…」


「知花に彼氏が出来たら、嫌だな~って?」


「…そうね~…知花には、先越されたくないかな~…」



 ぷっ。


 聖子は嘘が下手。

 中学の時は色んなスポーツで賞状をもらってた聖子は、男子からも女子からも一目置かれてる有名人。


 そんな聖子は…知花の事が大好きだし、自分とは正反対の知花が可愛くて仕方ないんだと思う。


 先越されたくないんじゃなくて、取られたくないんだよね?

 誰にも。



「りーくーちゃん。」


 音楽屋に寄り道すると、そこでバイトしてる陸ちゃんの後ろから、聖子が目隠しをした。

 そんなに盛大に名前を呼んだら、誰かってすぐ…


「誰かな~。スタイル抜群のお姉さんだと嬉しいんだけどな~。」


 …えー…陸ちゃん…

 分かんないのー…?


「あったり~。」


 陸ちゃんの浮かれた言葉に、聖子は満面の笑みだけど。


「…なんだ。てめーかよ。」


 聖子を見た陸ちゃんは舌打ちをして。


「ヽ(`Д´)ノ!!」


 聖子にケリを入れられた。



 陸ちゃんこと二階堂にかいどう りくは、大学二年生。

 僕らと同じバンドでギターを弾いてる。

 知花にスカウトされて…のバンド入り。


 陸ちゃんは『知花にスカウトされた』事を、すごく自慢する。

 …それだけ、知花の耳の良さとかセンスはすごいんだよね…。



「最近、何が売れてるの?」


 陸ちゃんがポスターの貼り替えをしてたCDコーナーで問いかける。

 僕はバンドしてるけど…普段聴くのはクラッシックが多い。

 あ、でもビートランドに所属してるアーティストは、なるべく聴くようにしてるかな。

 だって、父さんのバンド、Deep Redが手掛けたバンドも多くいるしね。



「今はやっぱコレだろ。」


 そう言って、陸ちゃんが僕と聖子の前に差し出したのは…『TOYS』っていうバンド。


「もう、今はTOYSの一人勝ちって感じよね…」


 聖子が陸ちゃんの手からCDを取って言った。


「だよなー。」


 TOYSは…三年前の夏、ビートランドからデビューした四人編成のバンド。

 家ではあまり仕事の話をしない父さんが。

「期待の新人がデビューした。」って言ったから…注目してた。


 確かに、ボーカルの『かみ 千里ちさと』って人は…作詞作曲のみならず、楽器はなんでも一通り出来るっていう凄い人。


 僕は鍵盤以外…

 かろうじてギターが少しだけ…



「あとはー…そうだな…この『SAYS』も人気急上昇中。」


 陸ちゃんが次に手にしたのは、これもビートランド所属のスリーピースバンド。

 クールなTOYSにホットなSAYS…って感じかなあ。



「あー、頑張ってるって感じよね。」


 聖子は誰に対しても聖子だなあ。



 聖子が上から目線で言ったのを、陸ちゃんと首をすくめて笑った。

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