第20話 「……」

「……」


 もう…ダメ…

 やっぱりあたし、生きるのが辛い。

 どうにか生きていくために、歌ってみたり猫を飼ってみたりしたけど…やっぱりダメ。

 引っ越したばかりの家も…こんな家主に住まわれたくないに決まってる。



「にゃーっ!!」


「にゃにゃにゃっ!!」


「…どうしてついて来たの…」


 振り返るとシロとクロがいて。

 あたしの背中に向かって必死で鳴いてる。


「…誰かに可愛がってもらうのよ…」


「にゃー!!」


「大丈夫…あんた達可愛いし…賢いから…絶対、あたしよりいい飼い主が見つかるから…」


 川岸にしゃがみ込んで、二匹に言い聞かせる。


 そうよ。

 あたしみたいに、ひたすら寝てしまってご飯を忘れたり、ちょっとした虐待って言ってもいいような放置具合をする人間…

 飼い主って言っちゃダメだ。


 あたしが生きるために飼い始めたのに、そんなあたしに殺されてしまう前に…誰かに拾ってもらった方がいい…



「…次の飼い主のお世話とか…本当はしなくちゃいけないのに…最低な飼い主でごめん…本当…ごめん…」


 シロとクロの頭を交互に撫でて、あたしは川に入る。

 寒いと思ったけど、寂しさとも辛さとも取れない自分の思いの方が勝った。


 このまま沈んでいけば、あたしは終われるんだ…!!



 コポ…コポ…と、水面に上がる気泡を見ながら…

 もう…これで…


『にゃーっ!!』


 バシャバシャ!!


『うおっ…深っ…』


 ………


 あたしより…岸寄りに…人影が見えた。

 手足を…ジタバタさせてる…


 …何この人…

 まさか…あたしを助けに入った…とでも?


 息を止めてその人影を眺めた。

 もう死ぬ寸前のはずだったのに、あたしの意識は思ったよりハッキリしてた。

 むしろ…

 人影の方が…暴れてた手足が動かなくなって、ゆっくりと…流れに身を任せるみたいに…


 …何してんの…?

 これじゃ…

 あたし、見知らぬ誰かと心中したって事になっちゃう…!!


「……」


 ぐっと奥歯を噛みしめて、水面に顔を出した。


「にゃにゃーっ!!」


 岸ではシロが騒いでて。

 あたしはゆらゆらと流されそうになってる人影目指して泳いだ。


 そして…


「……」


 男の人……重い…

 重いけど、必死でその人を掴んで川岸にたどり着いた。


 何とか…意識はあるみたい…


「…大丈夫…?」


 少しかすれたけど、ちゃんと声に出して問いかけると。

 目を白黒させながら激しく息をしてる男の人は、二、三度瞬きをして応えた。


「し…死ぬかと…」


「立てる?」


「猫…猫…」


「…え?」


「猫…無事か…?」


「……」


「にゃ~…」


 シロとクロが擦り寄って来て…ふと見ると、クロがずぶ濡れになってる。


「……」


 もしかして…この人…

 クロを助けに川に入ったの…?


「ぶっ…さ…さ…ぶ…っ…」


「……」


 このままじゃ…二人とも死んじゃう…

 …ううん…

 あたしは…死なないけど…

 この人は、死んじゃうかも…


 救急車を呼ぶとか、病院に連れて行くとか…

 そんな事も頭をよぎったけど。

 それは…


「か…鞄…」


「…え?」


「鞄…」


「……」


 岸を見渡すと、黒い鞄があった。

 あたしは…それを手にして。


 何もない我が家に…



 若くてきれいな男を連れて帰った。

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 優里ちゃん目線です。


 彼女の正体やいかに!?

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